第7話
「先ほどは言葉が足りませんでしたね。改めて詳しく説明いたします。そのほうがセンセイも決断しやすくなるでしょう」
そういって淡々と目の前のうさぎは語り始める。
「我々の星は他の星に比べても暮らしやすい場所です。そのため昔から他の星のあらゆる種族が征服をもくろみ攻めてきました。戦いを重ねるうち、我々の身体能力は効率的に進化していったのです。
今も昔も戦闘が多かった我々の星では医療技術が発達してきました。ある程度大きいの傷も後遺症や痕を残さず、完璧な治療ができる。しかし、最近ある病が流行り始めたのです。時代のせいか、環境のせいか……それは心の病でした。現役の世代を中心にじわじわとこの星をむしばみ始めた。恥ずかしながら心について何も知らない我々にとって、それはどんな最先端の技術をもってしても治せない病でした。それでも病は留まるところを知らず、広がり、悪化するばかり。
そんなとき、地球の存在を思い出したのです。我々は戦闘能力を持ちこそすれ、戦いは好まない種族。今まで何もなかった地球とは極力関わらないようにしていたのですが、調査の結果、地球に住む【人間】という種族はここら一体の生命体の中でも格段に優れた共感能力を持っていることが判明しました。我々を救うにはもうこの方法しかないと思いました。そこでまず【人間】の中で我々の星に流行る病と似た症状を持つ者を呼び寄せたのです。そして脳内データを読み取り解析すると、あなたの情報が出てきた。彼はあなたを非常に信頼しておられ、あなたの優秀さと優しさがよく伝わってきました。
優秀なあなたならもうおわかりでしょうか。そうです。あなたが呼ばれた理由はそれなのです。どうか我々をお救いください!あなたは最後の希望だ」
こちらをうかがうように見上げる赤い目。鮮やかな赤、暗い赤、様々な赤が入り混じって複雑な色を映し出す。しかしそれは心の中の不安を駆り立てる色だ。
男にはわかっていた。もはや謝っても何をしても、全て無駄なことを。患者を守れない医者など必要だろうか?
「最初に呼んだ彼は……もっと【人間】のデータが必要でした。彼の記憶も決して我々に都合のいい物ではありませんし。貴重なデータは取れましたから、今後センセイの生活に役立つことでしょう」
自分がいたから……。最後まで支えられなかった。自分だけ生きながらえるなど許されるのか?
真っ白なうさぎが、遠慮がちに近づいてこちらを覗き込んでくる。瞳の中がよく見える。
「実はセンセイの歓迎会の準備もしてあるんですよ。みんなずっと楽しみにしていました。あの青い地球は素晴らしいと毎日眺める者も多いのです」
青い地球。青い瞳。
灰色の要塞。灰色の瞳。
「どうですか、決めていただけましたか?」
大きくて真っ赤な瞳がらんらんと輝いてこちらを見つめてくる。どこまでも妄信的で支配的な色だ。
その赤はきっと……。
「センセイ、先生。お願いします」
君の命の色なのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます