第3話
ベンの後ろに居たのは、すらりと背が高く、足の長い男で、月明かりに浮かび上がるその顔は、神が作りあげたと言っても過言ではないほど、精巧で美しい。
月光のように輝く銀の髪に、アクアマリンのような瞳、氷の貴公子と言っても良いような風貌なのに、着ているものはそれほど高い物ではない。
「誰あんた?」
ベンが酷く気遣う様子で私の方へと近づいた。
「お嬢様、お気を確かに」
「はい?」
「舞踏会で婚約を破棄されるほどの暴挙に出られて、気が動転しているのは分かりますが、『唾をぺっ』といい、先ほどの『誰あんた?』といい、性格が変わりすぎていてベンは怖くなってきました」
ああーー、ベンは私が生まれた時から伯爵家で庭師として働いているからねー〜、今の私に違和感を感じているのは良く分かるかも。
「ベン、この際だから言っておくけど、アグライア・ウェルナーという伯爵令嬢は死んだのよ」
「はい?」
「公の場で婚約を破棄されて、ショックのあまり家を飛び出して、貴族の令嬢が無傷で居られるわけがないでしょう?だから、死んだの。わかった?死んじゃったのよ」
「まさかお嬢様!自ら命を断つ気じゃ!」
「そんな訳ないじゃない!市井に潜り込んでそのうちに国外を目指すから、とりあえずベン、後で絶対に返すからお金を貸して」
「ええええええ!」
「それから、誰か知人の家を紹介してくれない?あと、とりあえずのところでいいから働き先も紹介してくれると助かる」
「いやいやいやいや!無理無理無理無理無理!」
ベンは拒絶するようにして一歩、後ろに飛び下がった。
やっぱり、おじいちゃんお小遣いちょうだい、みたいなテンションが悪かったのかしら。
「土下座でもすればお金を貸してくれるのかしら・・」
私の不穏な発言にベンが顔を真っ青にすると、今まで話を聞いていた氷みたいな色合いのイケメンが片手をあげながら、
「だから!僕が貸してあげると言っているのに!」
と言い出した。
「僕はこれでも商人なんだよ。契約を結ぶためにホーエンベルグ公国に来ていたんだけど、話自体に胡散臭さを感じてね、明日にはブザンヴァル王国に帰る予定だったんだ。君が望むなら、お金も貸してあげるし、働く場所も提供してあげられると思うよ」
いやいやいやいやいや。
「お母さんから、知らない人からお金を借りちゃ駄目だって言われているし」
「君の愛する庭師ベンの友達だよー〜?」
「愛するってなんなんですか」
隣でベンが小さな声で反論しているけど、仲が悪いって感じには見えないのよねぇ。
「ねえベン、この胡散臭いイケメンは、私をふん捕まえて、貴族令嬢だからって高値で娼館に売りつけるような?変態貴族に売りつけるような?自分に惚れさせて金を貢がせるよな?そんな奴ではないのよね?」
「お嬢様!どうしてそこまで変わられてしまったのですか!」
ベンはさめざめと泣き出した。
「お上品で淑女の中の淑女とも言われたお嬢様が、そのような平民そのものの雑なお言葉」
「その淑女の中の淑女が、なんで借金しなければ逃亡一つも出来ない訳?持ち出せる宝飾品の一つや二つは持っているものでしょうに」
イケメンの言葉は私の胸に突き刺さった。
「持ってないんです」
「うん?」
「全部、義理母、異母妹に取り上げられちゃって、今日も最後の一つである母の形見を持ってかれたので、完全なるゼロになっちゃったんですよね」
テンプレ通りの展開だけど、無一文って辛いよね!
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