第6話 駒止の桜

 「キシツ、あたし、もうお腹一杯、卵サンドが余ったので食べる?」


「うん、食べる」


「これから富士山をぐるりと廻って帰ろうかと、何処か寄りたい処ある?」


「分からないがルートは?」


「朝霧高原、富士五湖から中央高速で帰ろうかと?」


「朝霧高原の名前は聞いた事があるような気がする?」


「其処は寄って見ましょう。途中で富士山の絶景があったら止まりましょう」


車は先程のインターチェンジを通り過ぎて朝霧高原を目指して走った。


途中で俺は何かの言葉を思い出した。


「舞、さっき富士山の絶景とか言っていたな? それに関係してある言葉を思い出した。駒止の桜」


「それって頼朝が富士の巻狩りで馬を止めた桜の木だよね。カーナビに

入れてみるよ」


車はバイパスから左に入り県道に出て暫く走り、地方の銀行を過ぎた処で左に曲がった。小さい橋を渡るとカーナビが此処ですと示した。

俺は直ぐそこを右に廻るように指示した。


「道が狭いけど大丈夫?」と舞が不安そうに聞いた。


「大丈夫、前に来たような気がして来た」


少し走ると深い谷に吊り橋が架かっていた。

車は十分通れたが谷の深さが三十メートルはありそうだった。


橋を渡り山林地帯を抜けると田園風景が見えて来た。


そのまま進むとダムが見えて来た。


小さいダムで底に水が少し溜まっているだけだった。


ダムの上を走り道なりに右に曲がり暫く行くと、山に上がる舗装していない道路が左に見えてきたので、俺はその道に入るように指示した。


「えっ、此処上がるの?」


「大丈夫だよ、直ぐだから」


「四駆で走るような道ね」


舞は少し不安そうだったが、直ぐに平地になっている場所に着き車を止めた。


少し高い処から富士山を望むので林や丘が下に見えて、裾野の線がはっきり見えた。青い富士の麓には集落の屋根が疎らに見えていた。


舞は絶景だと喜んでいた。


「如何してこんな処知っているの?」


「分からない、ただ前に来た事は覚えていた」


「一人で?」


「いや、何人か一緒だった気がする」


「女の子はいた?」


「分からない?」


平地の後に小高い山があり山に登る道がみえた。


舞が平地の横にある水たまりを覗いて「可愛い、イモリがいる」と細い

草の茎で触った。


イモリは体を返して逃げた。

その時真っ赤な腹が見えた。

舞が「えっ、お腹が真っ赤! 面白い」とはしゃいでいた。


次は朝霧高原の遊園地の駐車場に車を止め色々散策したが、記憶に残っていたのは西にある山だった。山の異様な佇まいが記憶にあった。


その後は本栖湖、河口湖に寄り、中央高速に入った時は日が沈み始めていた。

  

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