第21話 アドルファスの山 2
「さて……団長さんよ、この山にいる魔物の数は増えてんのかぁ?」
「……実は報告によると、以前より数が減っているそうなのです」
「あぁ……? どういうこったよ」
「以前はかなりの数の魔物が観測された為に、非常事態として王国より連絡を受けて駆けつけてきたのですが、この山にたどり着く数日のうちにその数が激減したという偵察班よりの知らせがありましてな……」
「ほう、どっかに移動したってことかぁ?」
「いえ、それにしてはどうもおかしいのです、相当な数いた魔物も同じ種ではなく雑多な種が入り混じっていたのです」
「そんな状態の魔物が数日で、痕跡もなくいなくなるくらい統率がとれるわけがねぇし……妙だな……」
「えぇ、ですからまずは周辺の調査をしようと思いましてな」
「……それはいいが、気をつけろよ……囲まれてんぞ」
「……!? なんですと! 一体いつの間に! 」
アーテウ達は驚きながら、臨戦態勢をとる。
「まぁ落ち着けよ、慌てたところで事態は良くはならねぇぜ……数は多いが、さほど強そうな奴らじゃねぇな……だが、安全策をとるなら、中央突破で囲みを破る方が確実だとおもうぜ」
「そうですね、ここは貴方の言葉に従いましょう」
そう言うとエドワード達は、隊列を組み、じりじりと近づいてくる魔物の群れに対峙した。
「……よし、いくぞ! 俺に続けぇ!」
アーテウは叫ぶと同時に、剣を構えた右手を前に突き出し号令をかけた。
その声を合図に、魔物の群れへと突撃してゆく騎士達。
「ふんっ、雑魚どもがいくら束になろうとも無駄なことよ……我が力の前にひれ伏すがいい!」
アーテウは斬撃を放つ。
すると魔物のは一瞬にして真っ二つになり崩れ落ちた。
「ちっ……雑魚の相手は面倒だぜ、おい、そっちは大丈夫かぁ?」
「はい、こちらは問題ありません、アドルファス殿こそお怪我などございませんか?」
「おう、俺はこの通りぴんぴんしてるぜ、さて……まだ魔物はいるみたいだし、どんどん倒して行くとするかな」
「はい、私共も周囲を警戒しつつ進みます」
「おう、頼んだぜ」
騎士達が守る山道では、魔物の断末魔が響き渡っている。
「やはり、報告により想定されていた数より少ないように感じますな……」
「あぁ……それに、こいつらの動きがなんかおかしいんだよな……ビビってるっつーか、それとも……うぉっとあぶねぇ!」
アドルファスは突然空中から飛んできた岩を避けた。
「アドルファス殿っ! これは一体何事だ!」
アーテウが岩の飛んできた方向を見上げるとそこには、白銀の鱗を持つ美しいドラゴンが巨体を空に浮かべていた。
「まさか……竜種がこの山にいるなど聞いたこともない……」
アーテウは驚きながらも、剣を構えてその巨大なドラゴンと対峙した。
その姿を見てか、上空のドラゴンは口を大きく開けると、そこから凄まじい氷のブレスを吐きだす。
辺り一面が氷の海に包まれ、騎士達は悲鳴をあげながら逃げ惑った。
そして、凍える寒さに震えながら、それでもなお戦い続けようとする騎士達であったが
「おうテメェら! 死にたくねぇなら大人しく下がってろ!」
と、アドルファスの声が聞こえ、少し躊躇したがアーテウの指示で皆一様にブレスの圏内より遠ざかっていく。
その様子を見てか、上空にいたドラゴンが急降下してきた。
しかし、その爪が届く前に、アドルファスは身体強化に任せた体でそのまま空中に飛び上がり、剣へ青い炎を纏わせてドラゴンへ叩きつけた。
ドラゴンはそのまま落下し、轟音と共に地面に叩きつけられたが、すぐさま起き上がると自らの血にまみれながらも、怒りに満ちた目でアドルファスを見た。
「わりいなぁ……テメェの【逆鱗】をうちの聖人様がご所望でよ、特に恨みはねぇが先に襲ってきたのはテメェなんだから大人しく死んどけ」
そう言うと、再び斬りかかる。
ドラゴンは避けようとしたが間に合わず、首筋を切りつけられ鮮血が吹き出した。
だが、さすが竜種ということかその傷はすぐに塞がり始める。
さらにドラゴンは雄叫びをあげると、その大きな口をあけてアドルファスを噛み砕こうとしたが、それよりも早く彼の放った青い炎の刃がその口に突き刺さる。
ドラゴンは苦しそうにもがき苦しみながら口から泡を吹き出し、やがて動きが鈍くなりその場に倒れ込んだ。
アドルファスはその様子を見届けると、構えていた剣を下におろして振り返る。
すると、そこには騎士達が信じられないものを見るような顔つきで立ち尽くしていた。
彼はその視線に気づくと、ニヤリと笑い その表情のままドラゴンの首を跳ね飛ばした。
「竜種ってやつは、大概生き汚いやつらばっかりでなぁ……ちゃんと最後は首をはねて死んだの確かめた方がいいんだぜ、今度会った時は試してみろよ」
そう言って、アドルファスは笑った。
騎士達はその笑顔を見て、なぜか恐怖を感じた。
それは恐らく、竜種を単独で簡単に屠ることができる力を持つ者に対する根源的な恐怖だろう。
だが一人だけ、この男に対して何か別の感情を抱いているものがいた、アーテウである。
―――自分が目指すべきは、このような人物なのだと。
「さすが異世界からお越しいただいた勇者様でございますな! 見事な戦いぶり誠に感服いたしましたぞ!」
アーテウの言葉に騎士達もハッと我に返る、そう この人物は敵ではない、自分たちに希望を与えてくれる勇者だと聖人様も言っていたではないかと。
そして、みな称賛の声を上げた。
それに対して、アドルファスは仏頂面で、しかしどこか照れ臭そうに騎士達の称賛を受けている。
その様子を見ながら、この勇者殿と聖人様がいれば、きっとこの国は大丈夫だ……とアーテウは確信するのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
※作者はこんなオッサン目指しちゃいけないと思います。
* * *
※早朝の館にて
エド「アンタちょっと買い出しとお使いしてきてください」
アド「はぁ? こんな朝っぱらからなにいってんだテメェ」
エド「買い物メモはこれです、お使いはちょっと騎士団についていって山でお手伝いしてきてくださいね」
アド「だからよ!なんで俺が……」
エド「あぁ、先日気配があったんで、たぶんその山の近くにドラ ゴンもいるはずですから、ついでに逆鱗もお願いしますね」
アド「おい……こ……
問答無用で山に転送されるアドルファスでありました。
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