第12話 聖人様の暗躍
「さて……あの男は、手はず通りちゃんとやってるんでしょうかねぇ」
アドルファス達の行動を少し不安に思いながら、エドワードは上空から魔物の群れへと広域魔法を撃ち込んでゆく。
今回の計画は、現在残っている『影の魔王』を現地の勇者と共に討伐し、目に見える形で決着を着けて現地の人達に納得してもらう茶番である。
自分たちが『管理者』達の事情を勝手に話すわけにもいかず、だからといって【魔王はもういません】といったところでバーガ国王達が安心できないのは当然である。
だから目に見える成果で現地の人達に納得してもらうのが一番効果的だと判断した。
そこで思いついたのがアドルファスとスカー、2人の勇者の共闘での魔王討伐である。
エドワード個人の考えでは、王太子スカーは直情的ですぐ感情を爆発させるあまり王太子としてふさわしくない人物なので(どっかのバカにそっくりで)、勇者になるためにと称して継承権を返上させ、別の王子を立太子させるように王に奏上しようと思っていた。
だが、アドルファスに懐いたスカーが自ら王太子を辞めたいと言い出したと連絡を受けた時に、エドワードは大層驚いたが、これで面倒ごとが減るからいいか。と思い直しその話に乗ったのだ。
「……そういえばあの男、自称息子だった自国の王太子にも懐かれてましたね……王太子ホイホイの才能でもあるんでしょうか……?」
なにやら自分の事を棚に上げつつ、しょうもない事を呟きながら眼下の魔物達を間引いていく。
魔王の影を討伐する決行日までの3か月くらいは大きな被害が出ないように調整していく予定だ。
その間に、とりあえずアドルファスに躾を頑張ってもらい、スカーが使い物にならなそうであれば、自分達が出て行って『影の魔王』を片付ける算段になっている。
「さて……そろそろ頃合いですかね」
一通り殲滅し終えたことを確認して地上に降り立つ、そこには顔を引きつらせながらも必死で笑顔を浮かべようとする騎士達が待っていた。
「さ……さすがは聖人様ですね、大変見事な魔法を見せていただきました……」
「いえ、これくらいどうということはありませんよ」
笑顔を浮かべてエドワードがいつも通りの丁寧な口調で答えたあと、すぐに表情を変え騎士達へ真顔で問いかける。
「それで、状況はいかがですか?」
「はっ!国境付近に集結していた魔物の軍勢はすでに壊滅しました!そこに居たのは魔物だけで人間の姿は見当たりません!」
報告を聞いて一瞬考え込んだ後、エドワードはすぐに結論を出す。
「では砦の方へ引き上げましょう。みなさんもゆっくり体を休めて次の侵攻にそなえてくださいね」
そう言って踵を返し、エドワードは騎士団と共にその場を後にした。
◆◇◆
……バーガ王国の王宮の一室では、『落ち人』である日本人ユイカがこの世界にきてからの自分自身事を振り返っていた。
「まさか私がマンガの世界に来るなんて思ってなかったなぁ……ビックリだわー。でもなんかこの世界おかしいのよね……私みたいな日本人が落ちてくるなんて話なかったし……聖女召喚で呼ばれるはずのミリアは、なんかこないしどうなってるんだろ……」
独り言を言いながら考える。
そもそもなぜ彼女がマンガと同じ世界に来たのか?
その理由は、彼女自身もよくわかっていない。
気がついたらこの世界で目を覚まし、保護してくれた王宮で色んな人に話を聞くうちにマンガの世界であることに気が付いた。
そしてちょうど時間的にそろそろ勇者と聖女の物語が始まるところだったのだ。
せっかくだからと、彼女はその物語を楽しむためだけに行動を開始した。
まず最初にしたのは勇者になるスカーへの接触である。
彼に気に入られておけば、間近で物語を楽しめると思ったからだ。
「最近なんかお城の人達もよそよそしくなっちゃったし、スカー様もどっかいっちゃったらしいのよねぇ……当て馬になるはずの騎士団長も辺境にいってるらしいし……どういうことなのかなぁ……」
そんな事を呟いていると、コンコンと扉がノックされる音がする。
1人になりたくて、お世話してくれている人に下がってもらっていた為、自分で対応しようと声をかける。
「はい、どうぞー?」
「失礼いたします、ユイカ様へ聖人エドワード様が、突然で申し訳ないが都合が宜しければ、本日面会したいのでお時間をいただけないだろうかと。いかがいたしましょうか?」
「聖人様? ……あーあの召喚陣から出てきた人……。 はい!分かりましたー。今すぐで大丈夫なので、応接室でお会いしますとお伝えください」
「……かしこまりました」
ユイカの返事を聞いたメイドは、この礼儀のなっていないご令嬢を聖人様の前に出して大丈夫なのだろうか、と内心思いながらも一礼して部屋を出て行った。
そんな風に思われていることなど、一切気づかないユイカは
「あの人なんか日本にも詳しそうだし色々話が聞けたらいいなぁ……」
などとノンキに思いながらユイカはエドワードの待つ応接室へとむかうのだった。
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