第6話 会議は踊る 1

「このような情勢ですから些末な事にこだわってはいけませんしね?」


とにこやかにエドワードは答え


「さて、それでは本題にはいりませんか?バーガ国王?」


と話を切り替えるように切り出した。


「うむ、そうだな、これから話す事は我が国だけではなく全世界に関わる事なのでよく聞いてほしいのだ」


そう前置きをしてバーガ国王は語り始めた。


「現在この世界は魔王率いる魔物達の脅威にさらされておる。そして我が国も被害をこうむっているのだ。我が国は隣国を筆頭とする各国からの情報交換と支援を受けて魔王軍と全力で戦っておるところだが、それでもまだ戦況はかなり厳しいと言わざるをえぬのだ。しかし、聖人様のお力で勇者を選定していただければ必ず魔王を討ち果たすことができよう!」


国王は真剣な表情で熱弁を振るった。

エドワードは少し考えるそぶりを見せたあと


「確かに、今の状況でしたら、この世界で力のある国が手を取り合い一致団結して戦うことが何より重要でしょうね……かつて私達が住む世界にも魔王が誕生したことがございますので、この世界の皆様のご苦労がよくわかるというものです……」


と神妙に答える。


「聖人様がご降臨なされた時にお話し下さった件でございますな……もう少し詳しくお伺いしてもよろしいですかな?」


「勿論です、私の祖国でも幾度か魔王が誕生していると古い文献にも記載されております。直近では60年ほど前に私たちの世界では『勇者』を召喚して共に戦っていただきました。そのおかげで今では平和を取り戻しておりますよ」


「勇者を選定するのではなく召喚されたのですか……私共の世界とは少しちがうようですな……」


国王は深く考え込みながらエドワードへ質問を続ける。


「では、聖人様のご意見としては勇者を召喚すべきだとお考えでしょうか?」


その言葉に大臣達が驚愕する。


「陛下!いくらなんでもそれは……」


と言いかけた言葉を遮ってエドワードは答える。


「そうですね、それが最善の方法でしょう」


エドワードはニコリと国王へ頷く。


「おお!そうか!やはりそう思われるか!」


「えぇ、そしてその勇者はすでにここに来ておりますのでなにもご心配はいりませんよ」


と、エドワードは笑顔のまま話を続けていく。 その言葉に若干動揺しながら国王は


「え……ええと、まさかそちらの護衛の……?」


「はい、このアドルファスがそうなのです」


「なんと……!」


「さぁ、改めて皆様に自己紹介なさい」


と、エドワードはアドルファスを促す、するとエドワードの後ろで興味なさそうにどこかを見ていたアドルファスは面倒くさそうに


「アドルファスだ」


それだけ言うと黙った。

その態度に国王は怒り出すかと思われたのだが、意外にも国王は何も言わずただ静かに目を閉じて何かを考え込んでいる様子だった。

そんな国王の様子を見て大臣達は顔を見合わせながらヒソヒソと話し始める。


「あの者、異世界の魔王と戦った勇者の弟子だとか聖人様が言っておったが、どう見ても普通の人間ではないか……それになんだか無礼な態度だし……本当に大丈夫なのか?……あのような者が我が国を救うなど到底思えんぞ……」


「しかし、国王陛下は聖人様を信頼しておいでのようだしな……とりあえず様子を見るしかないだろう」


「そうですな……とにかく今は少しでも異世界で魔王の討伐に成功したときの情報が欲しいところじゃからのう」


サワサワと大臣達の話し声が途切れることなく響く会議場、深く考え込んでいた国王は何かを決意したようにエドワードへ言葉を掛けようとしたその時


「父上! このスカーが勇者として魔王を討ち果たしてまいりますゆえそのような戯言にだまされてはなりませんぞ!」


と会議場へものすごい勢いで、手荒に止めることができない騎士達を振り払いながらスカー王太子が乗り込んできた。

突然の事に驚愕の表情で王太子を見る国王と大臣達。

その様子を見ながらスン、と表情をなくすエドワードと爆笑する寸前のアドルファスがいた。


「父上!こんな得体の知れない者のいうことなど信用してはいけませぬ!」


「お前は、聖人様に対してなんという無礼を働くのだ愚か者が!」


と国王は王太子を怒鳴りつける。


「しかし……」


と言いかけた言葉を遮ってエドワードが


「いいえ陛下、私は聖人ではありませんよ?」


とニッコリ微笑みながら答える。


「なっ……何をおっしゃいますか!貴方様こそが……」


と、先ほどまで静観していたアドルファスがニヤニヤと笑いながら口を挟む。


「あぁ、確かにそいつは聖人なんかじゃないぜ? ただの腹黒陰険野郎だからな!」


その言葉に一同驚愕する。


「アンタは無駄に話をややこしくするのをやめなさい!」


と、エドワードは呆れたように隣にいる男を軽く睨む


「はぁ?だって本当の事じねぇか」


「うるさいですよ!今はそういう話をしているのではないでしょう!」


と小声で言い争いを始めた2人を唖然とした顔で見る国王や大臣達。


そんな彼らを見ながらエドワードはため息をつく。


「まったく……アンタはいつも余計なことばかり言うんですから……とにかく、私は聖人などではございません!」


「い、いやしかし……」


と、国王が言葉を濁す。そんな国王を見ながら


「大変残念ではありますが、私は聖人などと呼ばれるほど人間ができておりませんので、バーガ国王には申し訳ありませんが躾のなっていないお子様には容赦しないときめているのです」


と、笑顔のままエドワードは国王へ告げる。


その次の瞬間すっとスカー王太子の方へ少し手を伸ばし、パチンと指を鳴らした。


その直後にスカー王太子は


「うぎゅぐあ」


とよく分からない声を上げたと思った瞬間バタリと倒れた。


その様子に驚きながら国王が慌てて駆け寄ると、王太子は気絶していた。


そんな王太子を心配そうに見つめていた国王だったが、顔を上げて悲しそうにエドワードを見た。


「心配はいりません、少し気絶してもらっただけですよ」


と、エドワードはニッコリ微笑んで答えた。


そんなエドワードの言葉を聞いて国王はホッとしたような顔をしたが、すぐにまた真剣な顔になり


「かさねがさねの王太子の無礼をどうかお許しくだされ」


と頭を下げて謝った。


「いえ、気になさらないで下さい……と、本来なら聖人として答えるべきなのでしょうが、国王には申し訳ありませんが正直言ってご子息の教育に成功されているとはいいがたいご様子」


「…………」


「このままこの王太子殿下を野放しにしては国王陛下の信用問題にも関わってくるのではないでしょうか?」


「……まことにその通りです……私としてもなんとかしたいと思っておるのですが……」


と、国王は辛そうな表情で言うのであった。


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