第4話 アドルファスの黒歴史

「さて……邪魔ものもいなくなったことだしじっくり聞かせてもらおうじゃねぇか」


案内された豪華な客室のソファへアドルファスはどっかりと腰を下ろす。

部屋の中は清潔で美しく整えてはあるのだが、恐らく聖女のための部屋なのだろう、薄桃色や薄黄色などパステルな色が部屋中に見られた。


「なんとなく落ち着きませんね……しばらく住む部屋のことですし後で国王へもっと地味な部屋をいただきましょう」


「あぁ……」


そんな会話をしながら、二人以外誰もいなくなった部屋へ無詠唱でエドワードが遮音の魔法をかけた。

アドルファスが部屋を見回し確認しながら真剣な表情で頷き、それをみたエドワードが事情を詳しく話し出した。


「実は先日……」


と、ミリアと面会したことから話し始める。


そしてこの世界の魔王のこと、そしてそれに対抗する為の聖女召喚のと勇者選定の儀式について説明した。

 

その話にアドルファスは呆れたような声で


「なるほどなぁ……あの大聖女サマまだ元気に異世界まで出歩くつもりだったのかよ?」


「えぇ……あの方らしいでしょう?」


とエドワードは苦笑した。


「まったく……あのクソババア共も少しは大人しく老後を満喫してりゃあいいもんを面倒ごとばっかり持ってきやがる」


ガリガリと頭をかきながら、嫌そうな顔でアドルファスは愚痴をこぼす。


「そんなに心配ならアンタが直接、ご本人方へ正直に『もっと自分たちを大事にしてほしい』言ってみたらどうなんです?」


しれっと用意されたお茶を飲みながらエドワードがいう。


「はぁ!? バカ言うんじゃねぇ!なんで俺がババア共に優しくしてやんなきゃならねぇんだよ!」


「そうですか?でもアンタ昔からミリア様に頭があがらないじゃないですか」


ニヤリとエドワードが笑い、それをみてアドルファスは嫌そうに顔をしかめた。


「そっ……そりゃあ……その、なんだ、昔ちょっとドジ踏んでデカいケガしたときあっただろ……あんときたまたまジジイの家に遊びに来てたミリアのバーサンが必死で治してくれたんだよ……めちゃくちゃ泣かれてよ……それからなんか苦手なんだよ……」


そう言いながらふいっとそっぽを向いてしまった。

そんな様子にエドワードは心の中で、恐らくアドルファスはミリア様に自身が子供のころ亡くなった母親を重ね見ているのだろうと察していた。


(全く素直ではないですね)

そんなことを思いつつもそのまま無言の時間がゆっくりと流れた。


「で? とりあえず情報は集めるとしてだ。こっちはババアから『剣』預かってきたぜ」


先ほどとは全く違う真剣な表情でアドルファスは言う。

その言葉に苦虫を噛み潰したような顔でエドワードは


「なんですって? その『剣』ってもしかしなくても『勇者の剣』でしょう? 継承者でもないのによく持ってこられましたね」


と驚いたように言った。

勇者の剣とは勇者が持つべきものであり、本来は勇者以外が持つことは許されない代物なのだ。

だが例外は存在し、継承すべき『勇者の力を持つ者』が存在しない場合は継承者を勇者自身が指名することができた。


アドルファスは懐に手を入れると ゴトリと布に巻かれたナニカを取り出す。


「継承者以外に使用できるように例外設定したってババアがいってたぞ、ただし『神聖魔法』は継承者じゃないとムリだとさ」


その言葉に呆れかえったエドワード。


「まったくお師匠様は……どこまで人外への道を爆走するつもりなんでしょうねぇ。 ……とりあえず剣については承知しました、それなら話は早いですからアンタ勇者やりなさい」


うんうん、と頷きながらエドワードはアドルファスへ命令する。

その態度にイラついたのか、アドルファスは舌打ちをしてまたドカッとソファの背もたれにもたれる。


「はぁ……マジかよ……確かに現地で探すったってどうせあいつらに、アホ王子にしろって騒がれるのが目にみえてんだよなぁ……代わりのまともな王子とかいねーのかよ」


と、ぶつくさ文句を言い始める。

そんな様子を見ながらエドワードは紅茶のカップを手に取り口元へ持っていく。

そして優雅な仕草で一口飲んだ後、ため息をつきながらやれやれといった表情でアドルファスの方へ視線を向けた。


「なんでそんなに嫌そうなんです? アンタが昔から憧れてた師匠と同じ勇者様になれる絶好のチャンスじゃないですか。そもそもアンタ、昔はよく『俺は勇者になるんだー』って私に自慢げに語ってましたよね?」


と、冷たくいい放つ。

そんなエドワードの言葉に、アドルファスは眉間にシワを寄せむすっとした表情で


「ジジイと会う前のマジでガキの頃の話じゃねぇかそれ。実際現物のジジイにあったら勇者なんて絶対なりたくねぇって思うに決まってるだろ?」


と、ぶっきらぼうに答える。

そんなアドルファスの様子に、エドワードはクスリと笑いながら手に持っていたティーポットから新しいお茶をアドルファスへ注いでやる。


「バーガ国王自身は国政についてはやり手のようですが、子供の教育はあまり得意ではなさそうですね。今回は時間もそれほどなさそうですし、諦めて勇者やってください」


その言葉にアドルファスは仏頂面で


「しょうがねぇか……」


と不貞腐れたように呟いた。


その後しばしお茶を楽しんでいた二人を国王の使いの者が迎えに来たのであった。

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