行方不明物質

 青鉛筆がない。どこかに行って消えてしまった。しかたなく紫をつかう。

 一番すきだった。はっきりしていてそれでいてはっきりすしぎていなかったから。本当にすきだった。

 三菱色鉛筆十二色。ほかの十一色は全部そろっているのに。きいろだいだいいろきみどりみどりみずいろむらさきももいろあかちゃいろくろうすだいだい。

 たぶんこの部屋のどこかに落ちている。今生のわかれとゆうわけでない。でもみつからない。

 箱の中で一本分だけすきまがあいていてなんとも気になってしまうから、新しい青鉛筆を買ってこようかと思ったが、それではかれの帰ってきたときに困るからやめておいた。かわりに普通の鉛筆をそのすきまに入れてやった。すこしはさびしさもうまるかと思ったがなんともならなかった。

 空白にもどした。それでもいつかまたわたしはそのすきまをうめようとするだろう、かれ以外のなにかによって。たぶんそこにかれのいたことをわすれてしまってからだからずいぶんあとになって。

 いそがしいひびがすぎてゆきます。

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