掌編小説集
緑窓六角祭
おつまみ
わきばらのぜいにくをむしっては口に運ぶ。皮とあぶらみばかりでうまくはないが、それでもないよりはましである。ひとり晩酌としゃれこんでいたところつまみがすっかりきれてしまった。けれどもまだまだ飲みたらずかといって立ちあがって探しまわる気にもなれず、ちびちびとなめながらパンツとシャツのあいだからこぼれる肉をなぜていたら、はらりとむけていた。ちょうどひとくちに食べられようおおきさだったので、自然とゆるやかな動作で口の中にほうりこんだ。くりかえすように決してうまくはない。うまくはないが酒で流しこんでやれば食えないものでもなし、ただただ飲みつづけるよりはよかった。ぽろりぽろりと簡単にはがれ、むしっては食いむしっては食いしているうちに、かたい筋張った肉が出てくる。こいつは馬刺しとかそういった生肉のあんばいでわるかあない。ポン酢とそれとショウガでもあればずいぶんいけるだろうが、やはり動くのは面倒でしかない。まあ悪くない悪くないと思いながら、硬い肉をぐにぐにとかみきってゆく。そのうちにさらにまたちがった感触があらわれてくる、もう結構深くまで掘り進んできたようで、腹の中に手をつっこんでその指先がなにかぷるぷるしたものに触れている。力をこめると同じようにもげてしまって、赤黒い、肉とはちがったなにかだったが、食べてみるとすぐになんだかわかった、レバーだ。それもいい具合に脂肪がさしているからまろやかな味わいがあって、まずいどころかまったく美味であるといえた。するすると酒がのどを流れこんでいって夢中になって食べていると、おそらくそいつが最後のひとかけらだったのだろう、むしった途端にちぎれた赤い管が飛びだしてきて、びしゃびしゃと透明な液体が腹の中からあふれだした。そうしていっぺんに酔いがさめてしまった。ただよってくるのはどうやら酒精のようで、これまで飲んだ一切がこぼれてしまったらしい。
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