孤独オリンピックの優勝

ちびまるフォイ

最後の刺客

孤独オリンピックの決勝。


ついにここまで来た。


小学生のころから友達はできず、

高校生や大学生になっても常に一人で過ごしてきた自分が評価されるときが来たんだ。


「あと数日……数日で終了だ」


孤独オリンピック決勝が開始されてからというもの、

私はずっと人が寄り付かないような山の中で暮らしている。


普段はもっと都心側で暮らしているが、

いまはオリンピックの開催期間中。


コンビニ店員と顔を合わせた、というだけで減点されて

最後の最後で優勝を取り逃すなんてことになったら最悪だ。


自給自足で数日暮らしているが、

食事も味がしなくなって、飲み水もなくなり始めている。


このまま遭難するかどうかの綱渡りになっているのもわかるが、ここで折れるわけにはいかない。


「必ず……優勝してやるんだ……!」


そう固く決意した瞬間だった。


この険しく切り立った山の中に、ビキニ姿の女性が登ってきているではないか。

しかも向かっている方向は自分の家。


「はぁ~~道に迷っちゃったぁ……どこかに親切なダンディはいないかなぁ」


最初は限界まぎわの自分の幻覚かとも思ったが、

その甘い声に幻覚じゃないことを確信した。


そのうえ、自分と女性しかいない山の中で

衣食住を提供できるという自分のアドバンテージに背中押され

「声をかけたい」という非モテ欲求が全身をかけめぐる!


「ぐっ……!! 耐えろ! 耐えるんだ!!

 今は孤独オリンピック中じゃないか……!

 声をかけてしまったら、これまでの孤独に傷がついて……」


自分のほっぺをひっぱたきながらも、

目線はどうしてもビキニ姿の女性に目がいってしまう。


オリンピックで優勝したからってどうなるんだ。

一時的に表彰されてちやほやされて終わりじゃないか。


でも、ここで女性に声をかけてあわよくば仲良くなれば

その後の人生もバラ色の日々が続けられるかもしれない。



名声か、欲望か。



「うあああああ!! 私は! 私はァァァ!!!」


血の涙を流しながら苦悶し、私はついに決断した。



ビキニ姿の女性は、隠れたままの私に気づかずそのまま先へと進んでしまった。

もう戻ることもないだろう。


草かげに隠れてやり過ごした私は孤独を貫いた。


「私は負けない……! どこまでも孤独を貫いてやる!」





それから数日後。


「終わった……! ついにオリンピックが終わった!」


孤独オリンピックの期間が終了した。

大会側から持たされていたアラームが鳴る。


『お疲れ様でした! 表彰式を行うので会場にお集まりください!』


山を降りて会場へ向かうと、スタンドまで人がいっぱい集まっていた。

すでに表彰台や優勝カップなんかも用意されている。


「ああ……本当にこれまで頑張ってきてよかった……!」


この開催期間中、誰よりも孤独を貫き続けたのは間違いない。


これまでの人生はだれにも評価されなかったけれど、

今日ここではじめて後世にも認められる栄誉をつかむことができる。


「それでは表彰式をはじめます!!」


ファンファーレが鳴って孤独オリンピックの表彰がはじまる。



「優勝は……〇〇代表のロンリーウルフ選手です!!」



呼ばれた名前は自分ではなかった。

1位の表彰台にあがってからそれに気づいた。


「あなた場所まちがってますよ」


「は!? えっ!? 私が1位じゃないの!?」


「あなたは2位です」


「うそだろ!? だって……あんなにも孤独を貫いていたのに!?

 あれ以上に孤独でありつづけるなんてできないだろ!」


「ええ。最後はあなたとウルフ選手の争いでした。

 そしてわずかにウルフ選手が最後の最後で勝ち取ったんです」


「ちょっと待て! 私は最後の最後まで孤独であり続けたぞ!!

 なのになんで負けなくちゃいけないんだ! 納得できない!!

 

 ビキニの欲求にも負けず、飢えと渇きに耐え抜いてここまできたんだ!

 どうして私が1番じゃないんだ!!」


「本当に、本当にわずかな差だったんです」


「教えろ! なにが1位と私とで何がちがうんだ!」







「ウルフ選手、孤独を貫いて表彰式にすら来てないんですよ」



その後、優勝カップは置き配で届けられた。

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