逃避行

商社城

第1話 結婚式の現実

「けい子姉さん!今日結婚式があるんだよ!久しぶりにお腹いっぱい料理が食べれるって!」

2歳下の妹よう子が、笑顔で私に抱き着いてきた


私はけい子16歳。3人姉妹の長女です。


私の、私の家族の物語を、伝えたいので

筆を取りました。


私達家族は中国の満州と呼ばれた

黒竜江省の開拓村で育ちました。


1946年4月

花が咲き乱れる季節だけど、

まだかなり寒いんですよ。

だって緯度的には北海道の稚内よりも

北にあるんですもの。


私達家族5人は

同じ開拓村の日本人約50人と一緒に、

南の大連に逃避行を続けてるの。

大連から船に乗って、日本に帰るんだ


私達は馬車の中。

今までたくさん歩いてきたから

馬車に乗るなんて!と

キャッキャとはしゃいでた


「結婚は、今から暫くお世話になる

中国人の村長の息子さんだって!」と

妹よう子は声を弾ませる。


馬車が止まる。

目の前に村長宅。大きい家だ。

門は開けっ放しで中に入ると大きな庭。

日本人の仲間が数名固まって話している。

深刻そうだ。


若い女性一人泣いている。

彼女、どこかで見た顔、そう、あれ?私達と一緒に逃避行している開拓村の一人じゃない?


「私、お嫁に行きます。」

彼女は泣きながら、下を向いて、震えながら両手の拳を握りしめている。


え?村長の息子と結婚するのは地元の中国人ではないの?

何で、彼女が?私達開拓村の女性が

到着したばかりの、会った事もない

中国人村長の息子と結婚するの?


後で聞いて分かった

村長が我々日本人50名を預かる条件として

若い女性一人を村長の息子の嫁に差出すよう要求したんだ

私達の中の若い独身女性といえば、挺身隊のメンバー。


この挺身隊ってね

大日本帝国が私達のような開拓団をサポートする為に組織されてね

大学生以外の若い男女を満州各地に

送り込んでいたの

私達の中にも数名の挺身隊の

若い女性の方がいてね。

その女性達で、、、女性達ぃっで、、、

じゃんけんで

結婚して村長宅に残る人を決めたの、、。


「皆様の為に、お国の為に、私達は派遣されました。だから本望です。。。。

ああ、お母さん、一目、もう一目会いたかった・・会いたい、会いたいよお。お母さん、お母さん、お母あ・・」


何て私は馬鹿なんだ。。。

御馳走を食べれるからって、何をはしゃいだんだろう?

私も下を向いて泣いた


その夜の結婚式には、たくさんの料理が出た。

皆、静かに食事をした。父は私の頭を撫でた。そして私はやっと箸を動かしたんです。


・・・・

こんな事になるとは思わなかったんです。


満州ってね。とても良いところなのよ

広い平原でね、3月になると野焼きがね、地平線の向こうでね赤くゆらゆらしてとても綺麗なの

スイカもいっぱい穫れてね、

ほおずきなんか、とっても美味しいくてね、私一人全部食べてしまって

お父さんから「全部食べたら、次の年収穫できないだろ!」って怒られた事もあったわ


お父さんは広い野に馬を駆るのが大好きでね。でも私は馬の世話が嫌だからよく怒られたわ


それにね、それにね、冬も雪はそんなに積もらないの!氷が張ってね、学校まで滑ってそりゃ楽ちんで・・・


・・・

あの日から変わったの

なんだか変だと思ったの


1945年春だったかな?突然ソ連兵が来たの?たった一人だったけどね。

「銃を渡してくれたら帰ります」って。まだ、この時は平和だったわ。


そして、8月15日

大人達が何を話していたかは分からない。とにかく慌てている様子だった


でも何が起こったかはすぐに分かったわ


何故なら、今まで、日本軍の馬の世話は中国人がしていたのに


ある日突然、日本軍は去って

代わりに中国の八路軍がやって来て

彼らの馬の世話をするよう命令が

私達の開拓村にきたんですもの


そしてね・・・

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