あいらぶ⭐︎耕介 貴方がいてくれるから僕らはこうして生きていける

久路市恵

4/1(金)今日から俺日記 始めるぜ



「今夜の予定は?」


 と聞かれてB5sizeの分厚い焦茶色の皮の手帳を開いて確認する。


「今夜は何も入っていません」


「それなら久々にみんなで外食でもするか」


「はい」


 手帳を閉じて携帯を出し電話をかける男の名は琴浦京仁ことうらきょうじん、後部座席に座る男の秘書をしている。


 これは、尊敬してやまない社長と共に生きる俺たちの記録の書、

 

 題して「あいらぶ⭐︎耕介」


 俺の日記だ。


 もちろん、ここでの中心人物は我らが誇る一本島いっぽんじま耕介こうすけなんだけど、


 琴浦京仁をはじめ、いろんな人間関係を築き日々成長している俺とみんなを記録していこうかな。


 たわいない日常とか事件とかちょっとした出来事を書きたいと思います。


 この頃ね。俺もなにかしなきゃって掻き立てられるつうのか、胸が騒ぐみたいな。


 俺も大人になったつうことかな。


 という事で……。


 まずは後部座席の男を紹介する。


 Ippon is land Co.取締役社長、


 「一本島耕介!」


 彼は誠にキレる男なんだ。

 

 キレると言っても短気のキレるではなく、

 

「ずばり!できる男」


 できることに付け加え、


 「金はめちゃくちゃ持ってる


 「背は高い


 「顔は腹が立つほど整ってる


 「女にはモテまくる


 「センス抜群である


 知的な雰囲気は右に出る者なし!何をやっても抜かりなくそつなくこなす。


 成功を収めてきた完璧な男で、


 今年四十三歳になられました。


 この秘書の琴浦ことうら京仁きょうじんは男子でありながら一本島耕介に惚れ込んでとことん尽くしている。


 無論、俺もその一人だけどね。


 彼につかえる側用人は皆同じ気持ちなんだ。


 俺が誇る一本島耕介となぜ出会ったのか、これから出てくるそいつらのことは、おいおい紹介していこうと思います。


 これって、俺の日記だから、さんとかくんとか採用しない。


 ということで、社長だろうが耕介、歳上だろうが京仁と呼び捨てで行く。

 

 ずは、この京仁との出会いなんだけど、


 さかのぼる事、六年前、


 耕介が福井県での仕事を終えて足を伸ばして観光がてら立ち寄った東尋坊。


 崖っぷちギリギリに突っ立って今にも旅立とうと決意したような背中をしてた男がいたんだよね。


 それも吹きつける日本海の海風は相当、いた冷たかった。だから凍えるような季節だったと思う。

 うる覚えでごめんなさい。


「お前、度胸試ししてるのか」


 って耕介が背後から声をかけた。

 

 ふと振り向いたその男がなんとも情けない顔したイケメン京仁だった。

 その時の顔を思い出す度、いまだに笑える。あの時のあいつの顔を動画にでも撮っときゃ良かったなって思うわな。


「死に急ぐなよ。考え方ひとつでどうにでもなるんだから」


 背中が余りにも憂ってたから耕介は思わずそう声をかけた。


 声をかけられた京仁はその場にへたり込み地面に伏して泣いたんだったな。あの時はさすがの俺もちょっとしんみりしてしまった。


 耕介は俺を見て『どうする?』って無言の眼差し、俺は口をへの字に曲げて首を傾げた。

 

 とりあえず京仁を車に同乗させ、その夜は予約を入れていた近くの旅館に泊まり、酒を酌み交わし夜通し話し込んだんだ。


 これが京仁との出会いです。


 道先案内人は俺、小手川千緒こてがわちおよろしく!ということで、少しばかり俺の自己紹介をしておこうかな。


小手川千緒こてがわちお、三十歳、両親無し、5歳の時、交通事故で二人揃って死んじゃった。ほとんど記憶にない。部屋に飾ってる写真だけが親子の証だ。


 運転歴十二年、ベテランとは言えない運転手だけど、無事故無違反の自称真面目な青年であります。


 俺、千緒ちおは、元々叔母の経営する保育園の送迎バスの運転手をしていたんだ。

 

 親が死んだ後、叔母の里子が俺を引き取って育ててくれた。


 その頃、里子叔母には子供がいなくて、快く向かい入れてくれたっていうのが記憶の片隅にある。

 だけど、その四年後に圭介が生まれた。

 

 だからと言って酷い扱いなんてされてない。同じように可愛がってくれたんだ。


 だけどその圭介は反抗期が凄まじく喧嘩をして高校を中退した。


 いつまでも遊び呆けていたんだけど、ある日突然就職する気になったみたいで色々面接受けたみたいだけど中卒だとそう簡単に職は見つからない。

 

 それで最後には俺の仕事を奪いやがった。てのは冗談で俺が送迎バスの運転手を譲ってやったんだよ。


 里子叔母も相当悩んでたから俺から辞めるって言ったんだ。


 今まで育ててくれた事への恩返しってやつをしたかった。


 その頃、保育園近隣に市営の保育園ができてしまって、叔母の経営する私営保育園は危機に差し迫ったんだ。


 少子化で子供の奪い合い、叔母の保育園がある一帯は新興住宅地じゃなかった。


 段々と若い人は独立していなくなってしまうから仕方ないって言ったら仕方ない事なんだろうけどね。


 閉園に追い込まれそうになったやばい時に助けてくれたのが耕介だったんだ。


 会社の子持ち社員のための託児所として叔母ごと買い取ってくれた。送迎バスがあるから社員の人たちも楽だと言ってね。


 それがきっかけで耕介と出会った。俺は背に腹はかえられぬで図々しく頼見込んで運転手に雇ってもらった。


 もうかれこれ八年になる。

 

 だから京仁よりも俺の方が先に入社して先輩なんだけど、今じゃ京仁の方が上役でありんす。


 会社は何をやってるかって聞かれても、なにやってるのかよくわからない。


 だって俺はただの運転手だから、まあ、兎にも角にも方々にある会社の一本島グループって名が付いている会社の本社って事かな。


 そして俺は社屋の隣に建つ一本島邸に住んでいるんだ。

 今時、住み込みなんて珍しいかも知れないけれど、住み込みたくなるような家だから仕方ない。


 この一本島邸には耕介が主人あるじで俺、京仁、先代社長の部下だった後場梧平ごばごへい鬼塚利喜おにづかりき、門倉さおり、門倉翔、丸山陸人の計七人が住み込んでいる。社員寮的なものじゃなくて、本当に家族みたいな住み方してるんだ。


 ちょっと想像つかないか?


 日記ってこんな感じでいいんだろうね。


 今夜は久々の外食だ!どこに行くのか!楽しみでやんす。


 食って、飲んで、お姉ちゃんのいるところでまた呑んで、きっと帰宅したら即、寝落ちだろうから今書いた。


 エイプリルフール!だからって嘘ってことにならない様に、三日坊主にもならないように頑張りますので末長く宜しくね。


 では今夜はこの辺で……。

 

 「焼肉だってさ!行ってきます」




 




 




 

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