EP01「〔魔女獄門〕事変」

SCENE-001 >> 〔魔女の鉄槌〕が下されるとき

 二十一時開場二十二時開始、零時終了予定でスケジュールが組まれたイベントをオフライン――ゲーム内ではなくリアルの会場で――開催しようというのは、わりと狂気の沙汰だ。


 それでも、会場まで足を運んで、いざイベントがはじまってしまえば何もかもが興奮と熱狂のうちに過ぎ去って。

 は、場内のアナウンスがイベントの終了を告げてから、まるで音楽イベントのアンコールよろしくはじまった。




 ――かつん、と。

 今日のイベントのために組まれた特設ステージの舞台袖から現れた一人の『魔女』が、芝居がかった仕草で手にした杖――白地に金糸で刺繍の施された、いかにもなローブをゆったりと纏い、目深に被ったフードの下からうっすらと笑みを刷いた口元だけを覗かせている女の、身の丈よりも長大なワンド――を床へと打ち付ける。


 会場にひしめく観客の視線と興味を一身に集めながら。

 ……何がはじまるんだろう……。

 そんな期待とともに。

 その音はまるで魔法のよう、退場アナウンスを待つ観客でいっぱいの会場へ水を打ったような静寂をもたらした。


「Summis desiderantes affectibus!」

 厳かに口を開いた女が朗々と唱えたその言葉は、マイクを通したわけでもない――そんなふうには聞こえなかった――のに。奇妙なほど大きく、会場内の隅々にまで響き渡って。


 ――限りなき願いを持って。

 ――【リィンカーネーション】ワルプルガにより〔マレウス・マレフィカルム〕がコールされました。

 ――ディメンション・コラプス。


 ――【アドミニストレーター】により〔リストア〕がコールされました。

 ――不正な要求です。

 ――【アドミニストレーター】による管理者スキルの実行は許可されていません。

 ――不正な要求が確認されたため、【アドミニストレーター】が持つ全ての権限が凍結されます。




 壇上に現れた一人の

 ゆったりとしたローブを纏い、目深に被ったフードで素顔を隠したその『魔女』が鉄槌のごとく振りかざした杖とともに揮う『力』は、観衆の度肝とともに、現実リアル幻世ゲームを隔てる世界の『壁』をも打ち抜いた。

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