ギリギリ侍~拙者、相手が神だろうがスライムだろうがチート転生者だろうが戦えば必ずギリギリバトルになる侍!義によって助太刀致す!~
ここのえ九護
序
壱 出会い
拙者、行き倒れ侍!
ギリギリ侍。
それは、例えどれ程の強敵を相手にしようとも、必ずギリギリ限界究極バトルに持ち込む幻の剣士の名。
そして、例えどれ程の雑魚を相手にしようとも、必ずギリギリ限界究極バトルになってしまう剣士の名。
なお、あくまで〝ギリギリの勝負になる〟というだけであり、必ず勝てるわけではないのが辛いところである。
世に邪悪がはびこり、罪無き人々が悲しみに暮れた時。
ギリギリ侍はどこからともなく現れ、あらゆる悪党にギリギリバトルを挑んでは、風のように去っていくという――
「――それじゃあ、カギリさんはスライムと戦ったせいで死にかけてたんですか?」
「いかにも! なんとかギリギリ紙一重で勝つことが出来たが、実に恐るべき魔物でござった!」
「そ、そうですか。それは大変でしたね……」
その日。
〝運命の勇者〟と呼ばれ、人類最強の一角と目される少女――ユーニ・アクアージは、うららかな森の中で行き倒れていた〝奇妙な男〟を助け起こしていた。
年の頃は二十代前半だろうか。
深紅に染め抜かれた異国の服に、特徴的なござる口調。
さらには腰にぶら下がる、長短不揃いの見慣れぬ刀剣。
長い黒髪と
そして信じがたいことに、カギリと名乗ったこの男は子供でも簡単に倒せる最弱モンスター、スライムと戦って死にかけたというのだ。
「こうして勇者殿と出逢えたのは実に幸運でござった! 傷を治して頂いたこと、心から感謝する!」
「僕のことならユーニで構いません。この辺りも最近は物騒ですから、このまま近くの村までご一緒しますよ」
「かたじけない!」
そう言うと、ユーニは立ち上がって柔らかな笑みを浮かべる。
短く纏められた
そして凜々しくもまだ幼さを残す可憐な横顔。
洗練された軽鎧に身を包み、颯爽とケープをなびかせる彼女の立ち姿は、まさに世界の運命を背負う勇者に相応しいものだった。
「ところで、ユーニ殿はなぜこのような場所に?」
「実はここ数日、この辺りの街や村が立て続けに魔物に襲われているんです。先に向かった討伐隊の皆さんや、聖教騎士団にも被害が出ていて……」
「なんと、そのようなことが……」
「でも、僕が来たからにはもう魔物の好きにはさせません! たとえどんな強敵が相手だろうと、絶対に倒してみせますっ!」
「それは頼もしいでござるな! ならば、拙者も微力ながら助太刀致そう!」
「ええっ!? あー……えーっと……お気持ちは嬉しいんですけど……あまり無茶はしないで欲しいというか……」
「なるほど、心得た!」
(だ、大丈夫かなこの人……?)
なんとも調子の狂うやりとりに、ユーニは微妙な表情で隣のカギリを見上げる。
スライムと戦って瀕死になるこの男が、近年勢いを増す強力な魔物相手に戦えるとはとても思えなかったのだ。
「でもカギリさんこそ、この辺りの方じゃありませんよね。旅の途中ですか?」
「うむ! 拙者、はるか東の地より大海を越えてやってきた〝侍〟でござる! 〝この世で最も強い悪党を倒す〟ために旅を続けておってな!」
「さむらい? 最強の悪者を倒す、ですか……?」
「左様! ユーニ殿もそのような輩の噂を知っていれば、ぜひとも教えて欲しいでござる!」
「そうですか……」
勇気と無謀は違う。
魔物との戦いは遊びではない。
ユーニはその旅の中で、カギリのような〝身の程知らずの末路〟を数え切れないほど見てきた。
「あまり、こういう事は言いたくありませんけど――」
追い打ちとばかりに語られたカギリの旅の目的に、ユーニは警告の意味を込めて彼を
「――待つのだユーニ殿。拙者達が向かっている村というのはこの先でござるか?」
「そのはずですけど……どうかしましたか?」
「火だ……村が燃えている!」
「えっ!?」
刹那、すぐ横を歩いていたはずのカギリの姿が一瞬でかき消える。
驚いたユーニが視線を正面に向けると、すでにカギリの背中は豆粒のように小さくなっていた。
「ま、待って下さいカギリさん! 村が燃えてるって……どういうことですか!?」
「説明は後ほど! 事は一刻を争うゆえ!」
慌てて駆け出したユーニの問いに、カギリは前を向いたまま答える。
だが彼女を最も驚かせたのは、カギリの持つ身体能力の高さだった。
(は、速い――!?)
ユーニは勇者だ。しかもただの勇者ではない。
人々の中には、彼女こそが人類最強と呼ぶ者もいる。
しかし今目の前を走るこの男は、そのユーニを上回る速さで森の中を駆けていた。
(でも、カギリさんはスライムに勝つのもやっとだって……こんなに速いのに!?)
だが、ユーニの疑問は答えを得ぬまま置き去りにされる。
瞬く間に森を抜けた二人の前に、燃え盛る炎と焼け落ちる村、そして悲鳴を上げて逃げ惑う人々の姿が飛び込んできたのだ。
「酷い……どうしてこんな!?」
「分からん! とにかくまずは村の者達を助けねば!」
「はい!」
無惨に炎上する村を前にした二人は、すぐさま村人達を助けようと炎の中に飛び込んでいく。だが――
『ほう……? 人間にしては随分と強い力を感じると思ったが……そこの小娘、どうやらただの人間ではないようだな』
「っ!」
二人が再び駆け出したのと同時。
灼熱の炎を身に纏い、焼け落ちる家々よりも巨大な魔物が二人の前に立ち塞がる。
『我は破壊神オズ。
「〝
「ユーニ殿……やれるでござるか?」
「やります……っ! それが勇者の……僕の務めです!」
「……あい分かった。ならば、拙者は村の者を!」
ユーニの決意を汲んだカギリは頷くと、人々を助けるべく走り去る。
単身残ったユーニは正面を見据え、神の名を冠する魔物と対峙した。
「答えて下さい。この村を……いえ、この辺りの村や街を襲っていたのは貴方ですか……?」
『フン……だったらどうする?』
「そんなの決まってる――!
瞬間。ユーニの瞳が翡翠の輝きを灯し、黒雲渦巻く天を切り裂いて一条の光芒が聖剣となって降り注ぐ。
そしてその光が完全に収まった時。
そこには右手の聖剣から背面までを覆う、聖剣と一体化した巨大な装甲を身に纏い、その身から翡翠の光芒を放ちながら決然と構える運命の勇者――ユーニの姿があった。
『面白い……! 矮小な人の力がどこまで神に抗えるか、見せてみるがいい!』
――かつて、栄華を誇った文明が滅びてから千年の後。
その元凶たる魔物の群れは、今も人々の命を
「ならば見よッ! そして知れ――! 我が名はユーニ・アクアージ!
叫び、緑光の尾を引いて神へと挑みかかるユーニ。
彼女が望む平和の訪れは、まだ見えていなかった――。
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