4.サービスサービス
俺の住むマンションは1SLDKである。
この「S」って何? と思ったものだが、サービスルームの頭文字らしい。不動産の広告上では窓がない、または窓が小さい部屋をサービスルームや納戸と表記するルールがあるのだとか。俺は部屋を借りる時に初めて知った。
なぜいきなりこんな話をするのかといえば、今夜はそのサービスルームで就寝しなければならなくなったからである。
「はぁ~……」
ため息が止まらない。
互いの罰ゲームを賭けてアスカさんとゲーム勝負をしたわけだけど、俺は負けて寝室を奪われてしまったのだ。
きっと俺の紳士の心が、女子にエッチな罰ゲームをさせてはならないと訴えていたのだろう。これは実力で負けたわけでも、興奮しすぎてミスったわけでもない。アスカさんと紗良さんのための敗北なのだ。
「はぁ~……」
まあ、終わったことは仕方がない。切り替えていこう。
予備の布団を引っ張り出してゴロンと横になる。一応収納スペースではあるけれど、元々物が少ないから大の字になって寝るスペースは充分にあった。
窓のない小さな部屋。居住には適さない部屋とのことだけど、ちょっと秘密基地っぽくてテンション上がる。俺もまだまだ若いようだ。
「うわっ、カズっちのベッド大きくてふかふかじゃん。羨ましいなー」
寝室にいるアスカさんの声がここまで聞こえてきた。あの人やっぱり声が大きいって。近所迷惑になったらどうすんだ。
逆に紗良さんの声は聞こえてこない。夜遅い時間帯だし、声のボリュームを落としてくれているのだろう。そこんとこはしっかり考えてくれて安心する。後は友達を静かにしてくれれば完璧だ。
「まさか、クラスの女子と一つ屋根の下で寝ることになるとは……」
予想もしていなかった事態。その割にはボロを出さなかったと思う。自分で自分を褒めてやりたい。
アスカさんと紗良さんに一体どんな事情があるというのか。部屋どころかベッドまで貸しているんだから教えてくれてもいいと思わなくもないけれど、仲が良いわけでもない俺に教えてはくれないだろう。
そうやって、聞くことを諦めるような俺だからこそ、あの二人は俺を頼ったんだろうし……。
「損なことばっかり押しつけられてる気がするなぁ……」
目をつむる。眠っている美少女がすぐそこにいるドキドキな状況なのに、すんなりと眠ることができた。
※ ※ ※
翌朝。食欲をそそる香ばしい匂いで目を覚ました。
「おはよーカズっち。ベッドありがとね。おかげでよく眠れたよー」
「ふぁい?」
朝起きたら、金髪ギャルが料理をしていた。
これは一体なんの夢? 一瞬固まってから、そういえば昨日はクラスの女子を泊めたんだったと思い出す。
「えっと、アスカさん何してるの?」
「見ればわかるでしょ? 朝食作ってんの。まっ、大したものなかったから大したもの作れないんだけどねー」
ナチュラルに冷蔵庫の中身をディスられた。大したものがなくてすみませんね。
「紗良さんは?」
「まだ寝てるよ。あの子朝は弱いから」
つまり、今現在俺のベッドに黒髪巨乳美少女が眠っていると……。
いかんいかん。朝から女子の前でいかがわしいことを考えてどうすんだ。紳士だった昨晩の俺、戻ってこい!
シャキッとするために顔を洗おうと洗面台へと向かう。その前にアスカさんに向き直った。
「あの、朝ご飯作ってくれてありがとう……」
「いや、お礼を言うのはこっちだし。昨日は無理言ったのに泊めてくれてありがとねー。カズっちってほんとにいい人だよー」
その「いい人」ってのは「都合のいい人」って意味じゃないよね? ……いかんいかん。クラスメイトに疑いの眼差しを向けちゃダメだよな。
顔を洗って完全に目を覚ます。女子が寝泊まりをした事実に、今更ドキドキしてきた。
さて、どうしようか? アスカさんの手伝いをしようかとも思ったけど、正直邪魔にしかならなそうだ。自分の実力は自分が一番よくわかってんだ。
ぼーっとテレビを観るってのも気が引けるし、身支度をしようにも寝室にはまだ紗良さんが寝ている。
やることがないなぁ、と突っ立っていると、おもむろに寝室のドアが開いた。
「あっ、紗良さん」
「……」
「お、おはよう?」
「……」
なんで目が据わってんですか?
昨晩は表情だけは微笑みを崩さなかった紗良さんが、今はなんだか不機嫌そうだ。ギャップのせいか恐怖心をこれでもかと刺激される。
「あ、あの──うわっ!?」
俺をじーっと見つめていた紗良さんが、なんの脈絡もなく抱きついてきた。
強く抱きしめられたせいで生々しい感触が脳を刺激する。柔らかい……柔らかすぎる……。これって、もしかしてノーブラでは?
「ぶはっ!」
何か、出してはいけないものを出してしまった気がする……。
紗良さんの柔らかさと匂いを堪能しながら、俺は膝から崩れ落ちた。朝から生まれてきたことに感謝せずにはいられない。
意識が遠のいていく俺を、紗良さんは強く抱きしめ続けていた。それだけは生々しく感じていた。
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