畑さん家の四兄弟
@arare_4
プロローグ
『畑さん家のお婆さんがなくなったらしい。』
そんな噂を聞きつけて家族葬の予定がクラブイベントのような規模になったお葬式は忘れもしない。
もちろん新聞にも町会の回覧板にも祖母すや子が亡くなったことは掲載していない。
大勢の参列者を前に父、拳造(けんぞう)は珍しく喪主らしい顔をして一番前の席でドンと構えていた。
自身の母親が亡くなったわりには泣きもせず。
葬儀場は聞いていた以上の参列者数にスタッフも慌てふためいていた。
控室ではお気に入りのタバコを蒸すお経をあげにきた坊主と母亮子(りょうこ)がお金の話をしていた。
「こういうのはお気持ちですから」
ニヤリと笑う坊主。
「じゃあ5000円でも良いの?」
亮子がけしかける。
亮子はすや子から生前散々いびり倒されていた、このふざけた会話は有前でもない。
数分後葬儀が始まった。
と思ったら、割と泣いてんじゃんと呆れた顔で長男勤(つとむ)が亮子を見ていた。
小一時間前にあてたばかりのパーマヘアを揺らしながら。
こいつも泣いていない。
そう、この大人数を招集する原因を作ったのが何を隠そうこの長男。
無駄に友達が多い。とにかく多い。なんだったら友達じゃないやつも混ざってる。
『ばあちゃん死んじゃったから明日葬式』
この文字を打った途端瞬く間に隣近所から町内に知れ渡ることになる。
噂が噂を呼ぶとはまさにこのこと。
この世の中に友達の祖母の葬式に参列する人間がどれだけいるだろうか。
坊主がお経を唱え始めた。
坊主も泣いている。なぜお前が泣く。
つられて泣く親戚や参列者。
昨日通夜で散々泣いたせいか変に瞼が腫れ上がり色白の肌が赤くなっているのは
長女菫(すみれ)勤の妹である。
生前のすや子から家事や料理を教わりずいぶんと可愛がられていた。
二人でデパートに行けば何かと買ってもらっていた。
就いたあだ名は『年金ドロボー』
見立てがよく愛嬌もあるため貢ぎたくなるようだ。
お焼香をする。
あれ?あれって何回だっけ?
前の人の真似をすればどうにか乗り切れるあれである。正しいかどうかはわからない。
お焼香のトップバッターは誰だって緊張する。
「あんた数珠持ってないでしょ、叔母ちゃん買ってきたからこれ使いなさい。」
と渡された可愛いピンクの数珠に微妙な気持ちを隠しきれないのか指先で数珠一粒を捏ねくりますのは次女鈴(すず)勤と菫の大人しくできない妹だ。
可愛いの押し付けほどお節介なものはない。
父拳造に似ている、こいつも泣いていない。
長いとにかく長いこんな長い葬式は初めて!!
と言わんばかりに長い葬式だ。もちろん参列者が多すぎるからだ。
今朝の9時に美容室で「これからばあちゃんの葬式なんだ」とパーマ液を頭に付けている勤をぶん殴りに行けるなら行きたい。
火葬場の時間もある、まいていこう。
『御出棺です』
ぞろぞろと集まる勤の友達。
おいおいおいおーい、棺桶持ちすぎだろ!!神輿じゃないんだから!!
親族だけでいいの!親・族・だけ!
その様子をよそにしゃがみこみ号泣する男がもう一人。
次男歩(あゆむ)勤、菫、鈴の弟である。
拳造と亮子は共働き、このご時世4人の子供を父親一人の稼ぎで賄えるはずがない。
すや子は歩を生後3ヶ月から我が子のように育てた、育ての親だ。
親族なんだから棺桶運べよ。
飛んで火葬場。
制服の裾がびしょびしょの歩はまだ泣いている。
リクルートスーツの菫と鈴は火葬場の煙突から煙が出るのを眺めていた。
拳造、亮子、勤、親戚一同は喫煙所でタバコタイム。
なんだか煙突から出る煙の出がいまいち。出が悪い。
「すやちゃん渋ってんのかな」心配そうな菫よよそに
「すやちゃんぽいねーお父さん!煙突みて!煙が詰まってるみたい!」
喫煙所に向かって鈴が叫ぶ。
「静かにしなさい!騒ぐところじゃないでしょ!」
亮子は鈴の空気を読まないところをつくづく育て方を間違えたと思っている。
「はやく上がればいいのにな、曾祖母さんと昔飼って犬に初恋の人とかが待ってんのに」
空を見上げ拳造はつぶやいた。
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