これからの家事分担について
もうすぐ新学期が始まる。授業の準備は既に終わってるから後は待つばかりや。ようやく仕事ができるなぁ。振り込みは当分先やけど、やっぱり当てがあるのは心強い。腹の底にある不安みたいなもんが消えていくんがようわかるわ。
「いやぁ、お雪さん頼りの状態からようやく抜け出せますね~」
「やっぱり収入源が二つあるというのは安心しますね」
今日も仕事があるお雪さんが笑顔で答えてくれた。この二ヵ月間はずっとお雪さんの稼ぎに頼りっぱなしやったんやけど、ほんまに余裕なかったもんなぁ。
「「おはよう!」」
我が家のおちびちゃん二人が起きてきた。美尾ちゃんは狐の姿のままやったけど、居間で人に変身する。けど、耳と尻尾は狐のままや。最初は部屋で変身してたんやけど、いつの間にか朝ご飯の直前に変身するようになったなぁ。この家にすっかり馴染んだんか、それともだれてきただけなんか判断に苦しむ。
「それにしても、毎朝米が食えるのもあと少しなんじゃな」
「う~ん、パンかぁ。あれはあれでええねんけど、毎日の朝ご飯ってゆうのはなぁ」
美尾ちゃんとお銀ちゃんは考え事をしながら、もそもそと炊きたてのご飯を口にする。そう、来月から我が家の朝ご飯にパンも導入されることになってるんや。
「来月から義隆さんもほぼ毎日働かれますから、朝ご飯を作る余裕が減っちゃうんですよね」
「この半年くらいは、俺かお雪さんのどっちかが家にいたからできたんやしなぁ」
美尾ちゃんやお銀ちゃんも手伝ってくれるとはいえ、掃除や洗濯も基本的には夜にまとめてすることになるやろう。そうなると、どうやったって朝起きる時間が圧迫されてしまう。
少なくとも平日の朝はほぼパン食になるやろう。昨晩の残りを出すってゆうのもいいけど、そうすると昼ご飯のおかずと重なるしなぁ。
「今までよりも少し早めに起きて朝ご飯の準備をしましょうか?」
「これ以上早くかぁ。お雪さんはそれができても、俺が……」
「なぜかなかなか起きられんときがあるな、義隆は」
「そうかと思ったら、なんか早う起きてるときがあるんやって?」
そう、俺は朝起きる時間が一定やないんや。これは寝る時間を同じにしても変わらん。一体何が問題なんかさっぱりわからんねん。
「お雪さんがいる間は作ってもらえるけど、十二月からは本格的にどうにもならんなぁ」
「いっそのこと、わしらも料理を覚えるか?」
「え、うちも?」
「なぜそこで自分が入っとらんと思うんじゃ」
お銀ちゃんの半目が美尾ちゃんに突き刺さる。少し居心地悪そうに美尾ちゃんは視線をそらした。
「そうですね。冬の間は義隆さんだけになってしまいますから、二人も料理を覚えた方がいいかもしれません」
「料理ってゆうても、そんな手の込んだもんを作れるようにならんでもええんやし」
「卵焼きや目玉焼きなんかを作れたらええんじゃよな」
「卵ばっかりやん」
そらせていた視線をお銀ちゃんに向け直して美尾ちゃんが突っ込む。卵好きやもんな、お銀ちゃんは。
「ともかく、米のご飯と食べられるおかずをいくつか作れるようになったらええだけやし、そんなに気負う必要はないやろう」
「そうです。卵料理だけじゃなくて、ハムやソーセージを焼いたりゆでたりするだけでも立派な料理ですよ。いざとなれば冷凍食品もありますし」
「卵とハムとソーセージか。後はレタスとバターがあったらサンドイッチも作れるな。とんかつなんかの総菜を使うといろんなやつが作れるか。あ、意外とどうにかなりそうやん」
「トマトもあれば彩りもいいでしょうね」
「二人とも、米の飯から離れておるぞ」
「でも、うちはそれでもええなぁ」
先日、ご飯の準備のことを考えてたときは、俺とお雪さんだけで料理をするってゆう前提やった。でも、全員がとりあえず料理できるとなると選択肢がかなり広がるんやな。
「そうか。美尾ちゃんとお銀ちゃんが料理できるようになったら、朝ご飯だけやのうて、昼ご飯や夕ご飯の準備なんかもある程度どうにかなるんか」
「お昼は昨日の残りとお総菜でどうにかなるとして、夕ご飯の下準備くらいはしてもらえるとかなり助かりますね」
「何か作業量がいきなり跳ね上がっておるのう」
「うち、お掃除がんばるからお料理はお銀ちゃんに任せていい?」
「美尾ちゃん、料理ができるようになると、自分の食べたいご飯を献立にすることができるんやで? 例え一部しか手伝えへんでも、自分の意見が通りやすくなるよ?」
「……うちもちょっと頑張ってみよかな?」
疑問形なところに美尾ちゃんの心中がよう表れとるが、とりあえず心はこっちに傾いてきてるようやね。もう少しか。
「そうしますと、来月からどうします? 私が少し早めに起きてご飯をつくりましょうか?」
「それで、俺が起きられるときは一緒に作ると。昼ご飯については昨日の残りでええとして、晩ご飯は俺が早く帰ってこられるときは俺担当、そうでないときはお雪さん担当」
「それじゃ、平日の買い物は義隆さんにまとめてお願いしますね。私が帰ってきてからだと遅すぎますから」
「わしらはどうするんじゃ?」
「しばらくは朝ご飯を作るのを手伝ってもらおうと思う。そんで、慣れてきたら晩ご飯の手伝いもしてもらったらええやろう」
「私が山に入るまで二ヵ月くらいありますから、何とかなるでしょうね」
おお、なんか急に道筋が見えてきたな。前に悩んでいたんが嘘みたいや。
「夕方に洗濯物をといれるんはうちらがやるさかいに、気にせんでええよ」
「どうせなら掃除もわしらがしておこう。そうすれば二人の負担も減るしの」
「お銀ちゃん、どんくらいすんの?」
「家全体をはたきで叩いて、掃除機でさっと床のごみを吸えばよかろう。わしら二人でやれば一時間程度ですむ。その後は遊びたい放題じゃぞ」
「あ~そっかぁ。それならええかなぁ」
お銀ちゃんがうまく美尾ちゃんを誘導してんなぁ。さすがに半年間ずっと一緒やと制御の仕方も身につくんか。
「ふふふ、何やら気付けば美尾ちゃんとお銀ちゃんにもしっかり家事をやってもらっていますね」
「住まわせてもらっておるんじゃから当然じゃろう」
「そうやね。なんもせぇへんってゆうのはさすがに気が引けるしな」
どうやらこれからの生活の方針が決まってきたようやな。相変わらず生活に余裕はないけど、負担が誰かに集中することはなさそうや。
「あれ? お雪さん、時間はどうなんです?」
「え? あらいけない、急がないと」
そろそろ家を出る時間が近づいていることに気がついたお雪さんは、朝ご飯を食べることに集中する。
「そうや。今月は俺ずっと家にいるさかい、一緒に炊事洗濯掃除をやろか?」
「今のうちにさっさと慣れておけというわけじゃな」
「買い物もできるようになったら楽しそうやなぁ」
一体何を買う気なんかが少し気になるけど、やる気をそぎたくなかったから俺はあえて突っ込まんかった。お菓子ばっかりを大量に買うような癖は付けてほしないなぁ。
「あーでも、遊ぶ時間をかなり削ってしまうことになるなぁ」
「構わんよ。これはこれで楽しいからな」
「そうゆうたら、うちって人里を知るために来たんやから、遊んでばっかりやとあかんことすっかり忘れてたわ」
「ある程度余裕ができたら、どっか旅行に行くのもええな」
主に金銭面で余裕がないとどうにもならんけど。いつの話になるやろ?
「ごちそうさまです。後片付けはお願いしますね」
「うむ、そのまま置いてゆくといい」
食べ終わったお雪さんはそのまま自室へと向かう。着替えるだけで化粧はせんから時間はかからん。
「それじゃ、皿洗いが終わったら、まずは洗濯物を干すところからやな」
「それが終わると掃除やね。その後は何するん?」
「実をゆうと特にない。昼ご飯の準備は昼前にしたらいいし、買い物は昼からやしな」
「なんじゃ、思ったよりも大したことはないのう」
これが毎日やるとなると面倒になるときがあるんやけどな。まぁええやろ。
お雪さんがこっちに顔を出して「いってきます」と声をかけてくる。廊下から遠ざかる足音を聞きながら、二人に何をやってもらおうか俺は考え始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます