【一旦休止中】狂人時代

カエデ渚

前説 時代背景として

 時代背景として——

 上は神授の王権により統治する君主から、下は伍長が率いる分隊にまで届く明確な命令系統と、その命令に反応して一挙一動を四角四面に動かす教練を積んだ軍隊は、それまで地上に存在したいかなる軍隊をも凌ぐ、かつてない服従的で効率的な政策手段であった。

 欧州主要国はこうした軍隊を持つことで、高レベルの国内治安の獲得を可能とした。治安が確立されると、農業・商業・製造業は興隆し、その結果、軍隊を維持するための徴税基盤となる民の富を拡大させた。こうして誕生した自己持続的好循環は欧州を始めとした諸先進国の力と富を、かつて他の文明が達し得たレベルを遥かに超えて押し上げた。組織、訓練の両点でも劣った後進地域の軍隊制度を相手に連戦連勝して、比較的容易に勢力を拡大してゆく道が確保されたために、諸般の先進国の全世界的帝国主義は地球上の新しい地域に向けて急速に拡がりつつあった。

 そんな先進的軍隊制度の波に、やがて日本と呼ばれる筈であった小さな島国は、一つの狂気を孕み育てていたのだった。

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