恵美子と健児の愛の物語
ようすけ
第1話 恵美子と健児
ある夜に恵美子と健児が自分たちの部屋で愛を語り合っていた。
二人には将来の夢があり、恵美子は保育園で保育士として働きたかった。健児は土木作業員で十分だと言ったが、本当は弁護士になりたかった。
そんな健児に、恵美子は失望した。
「土木作業員だなんて、あんたは本当に根性が無いのね」
「違うよ。本当は弁護士になりたいんだけど、夢を誰かに語るとそれが叶わなくなるって聞いたことがあるから黙っていたんだ」
「弁護士だなんて素敵な夢じゃないの」
「そうだよ、素敵な夢だよ」
その晩は朝までじっくりと性交をした。
翌朝、恵美子は浮気相手の吉城という男と動物園に行く約束をしていた。
吉城は女であれば誰とでも寝る淫乱だった。この朝も恵美子との性交を頭に思い浮かべて、いざその時に早漏をしないように自慰で精液を射出していた。
健児はもちろんそんなことは知らずに、恵美子が身支度をする姿を眺めていた。
「なあ、恵美子」と話しかける。
「どうしたのよ?」
「おれたちってそろそろ結婚のことを考える時期だと思うんだけどな」
「まだ早いわ、だって二人とも無職で生まれてくる子どもが施設になんか取られちゃったら可哀想なんだもん」
「おれ働くよ、言っただろう。将来の夢は弁護士なんだ」
「でもあたしは健児が六法全書を読んでいる姿だって一度も見たことは無いわ」
「そんな法律書なんて頭の中で記憶しているんだ」
恵美子が健児を見た。一見して馬鹿だと思っていたこの男にも取り柄があり、それは類稀な記憶力だと認識した瞬間だった。だが、信じていいのだろうか。
「本当なの、健児。あなたが六法全書を全て記憶しているなんて、何かの嘘だったら、あたしはあなたを一生許さないどころか、警察に行って逮捕してもらおうと思っているわ」
「警察に行って、何罪でおれを逮捕できると思っているの?」
「そんな法律は無いの?」
「ないよ」
「すごい!」
恵美子はもうメロメロだった。その日は吉城と一緒に動物園へと行って、その後でラブホテルへ行く予定になっていたが、動物はもう吉城だけで十分という感じだ。予定を大幅に変更するのは先方にも悪いからと、吉城との待ち合わせ場所に着いた時には、彼を誘ってすぐにもラブホテルへと足を運ぼうとするのだった。
それを吉城が咎めた。
「恵美子ちゃん、どうして朝からそんなに発情しているんだ?」
「あら、あたしはそんなこと無いような気がするわ」
「そんなことあるよ、恵美子ちゃん。だって今日は朝からフェロモンの匂いをぷんぷんと漂わせているじゃないか。交際している健児君が何か悪いことでもしたの?」
「健児はあたしの大事の人よ、悪いことなんかするわけない」
「なんだか気持ちが悪いなあ」と吉城は言った。
吉城が気持ち悪がろうがなんだろうが、恵美子は吉城をラブホテルに誘い、そこで昨晩の健児との性交よりもずっと激しい性交をして楽しんだ。一方の健児は恵美子のそんな浮気も知らずに、部屋の中でこの所進めている冒険ゲームのレベル上げに夢中になっているのだった。どこかから恵美子の声が聞こえる。
健児ははっとした。「恵美子が悲しんでいる声が確かに聞こえるぞ」
ただそれは幻聴だった。健児は確かに聞いた。
「恵美子の声だ、あいつが悲しんでいる」
そう思った健児は携帯電話を取り出し、実家の祖母が死んだと言って帰省している恵美子に電話を掛けた。何回も耳元でコール音が鳴った。健児は気が気でない。彼は自分の恋人が何かの事故に巻き込まれて内臓を破裂させ、救急搬送をされた先の病院で命を綴じようとしている幻想にとりつかれた。
「急げ、急げ、急げ、電波よ! おれの恋人が死にそうなんだ!」
一方の恵美子は吉城のちんちんで絶頂を果たした。
ぜいぜいと吉城の筋肉にしなだれかかった。吉城は朝から自慰で一発、恵美子の中でも一発を出して、心臓発作を起こしそうで目を閉じていた。そんな吉城の顔は健児よりも数段と洗練されていて、恵美子は吉城が健児だったらいいのになと考えていた。
風呂でシャワーを浴び、その後でも何回かした後で、恵美子はそれとなく吉城に聞いてみた。彼が法律学に長けていれば、健児を捨てて吉城とつき合うつもりだ。
「ねえ、吉城君。あなたって法律に詳しい?」
「おれが法律に詳しかったら何だというのかね」
吉城はおどけて、法律に詳しそうな態度で答えたのだった。
これに恵美子は少し陥落しそうになったが、気を取り直して聞いた。
「あたしの彼の健児君ね、実は六法全書を頭の中で記憶しているの」
「すごい変態じゃないか、健児君とやらは」
「それとは少し違うかな」
「どう違うのか教えてくれよ、恵美子」
「だって彼は夜がものすごく早いもの」
「それとこれとは点と点が結びつかないな。変態でも早漏はいるし、早漏にでも変態はいるんだ。早漏というのは、自分が早漏だからそれでも女性を喜ばせようと思って、あの手この手で変態を考えつくものなのさ」
「でも彼とのセックスはいつも普通よ」
「それはまだ交際して日が浅いからではないかな?」
「そんなことないわ」
恵美子と吉城は帰り支度を始めた。
一方の健児は自分の頭の中で聞こえた幻聴の為に、住んでいる阿佐ヶ谷の住宅街を、電波を追いかけて走っている所だった。警察官に追いかけられ、主婦たちに目咎められ、子どもたちもその後を楽しそうに笑っている。健児の頭の中は恵美子のことで満たされていたが、それも仕方の無い話で、吉城とのセックスで恵美子は何度も絶頂に達していたから、健児の元に聞こえる幻聴もそれはそれはおぞましいものとなっていた。健児の中ではもう恵美子は死んだことになっている。それでも彼は、過去に生きていた恵美子の元へと電話を掛けようと、電波を追いかけて頑張っているのだった。
恵美子と健児の愛の物語 ようすけ @taiyou0209
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