第6話 どーも、戦闘です

前回のあらすじ


主人公 エルフと知識の共有を行う



本文



どーも、筋肉痛で地面に寝そべってエルフに治癒ヒールで癒やしてもらっているオッサンです。


「た、助かった。さっきよりだいぶマシになったよ。ありがとう。マジで感謝する」


「いえ、治癒ヒールが早速役に立って良かったです。お役に立てて嬉しいです」


ユリさんも自傷行為をしながら治癒ヒールを習得し、俺を治癒して魔法の練度が上がった。マッチポンプバンザイ!!


「俺も弓を扱えるようになりたいから教えて下さい。お願いします」


時にプライドを捨て頭を下げるのに抵抗しない俺。だって、生きるためにはがむしゃらに行かなくてどうする。最低でも異世界転移初日に見たワイバーンを容易く屠れないと困る。力をつけて何も困ることはない。


「もちろんです。私も剣の訓練のお相手してくださると嬉しいです」


「訓練の前にご飯にしよう。今日は、野菜炒めとコンソメスープとパンだよ」


「ふふふ、ケンさんが作るご飯は美味しいですからつい食べすぎてしまいます」


「ご飯は沢山食べて力に変えれば良いさ。美味しく食べてもらえると作りがいがあるよ」


ご飯を用意しながら、今後の予定を定める。


「今日は索敵出来んなこれは。とりあえず習得するまで時間がかかるね。今後の予定はどうする?」


「そうですね、森の生活も悪くないなって思っているところなんです。こんなに充実した日は昨日に引き続いてです。だから...相談ですけど、交易都市には食料調達の為だけに通って森でしっかり鍛錬をしてから次の町に行きませんか?あと、私の血はハイエルフに近いらしいのでケンさんの料理に混ぜて食べてください。エルフ王家に伝わる伝承だと寿命が伸びるはずです」


「えっ? 寿命が伸びる? うーん、そこまで言うなら血の味がキツくないようにしながら調理してみるよ。ありがとう」


「いえいえ、命の恩人ですから。これでも恩が返しきれません」


「恩とか感じなくていいのに。今日はぐいぐいくるね」


「だってケンさんには長生きしてもらってこれからも一緒にいてもらわないと私、寂しくて死んでしまいます」


「ユリさんや、本気で言ってるのそれ」


「はい...私は本気です」


「いやいや、昨日会ったばかりだし、ね?よく考えてみて?世の中にはもっと良い人なんて山ほどいるよ」



ガサッ、ガサッ



ヤバい、料理の匂いに釣られてモンスターが寄って来たか?野菜炒めの途中だし...迷っている暇はないか。


「ユリさん、戦闘準備と警戒をお願い。俺も...」


「いえ、ケンさんは料理をお願いします。せっかく勇気を出して伝えている最中に邪魔されたのですから...」


うわー、めっちゃ怒ってるー!!

とりあえずスマホで鑑定しよう、あと料理は再開しないと怒られそう。


鑑定結果:ウルフ


「ユリさん、敵は3体でウルフ。仕留められる?」


「任せてください。確実に殺します」


そこまで言うなら任せておけばいいか。料理をしながらユリさんの戦闘の観察しよう。



ガァアァッ



3体のうち2体がこちらに飛び出してくる。

ユリさんは冷静に弓を構え即座に矢を射出する。

ヘッドショット!?

矢が頭に深く刺さりウルフが倒れる。仲間をやられたのことに激怒したのか最後の1体が突進してくる。

突進するウルフに対して、ユリさんは素早く対応し矢が3本...頭に2本、腹に1本刺さる。


「おおー、お見事です」


笑顔でこちらを振り向くユリさん。

怖い、なんか怖い。


「ふふふ、弓には少し自信があったので良かったです。それより話の続きをしましょう?」


「ちょ、まって。ウルフの死体をどうにかしないと。俺が筋トレで土を掘った場所があるからそこに埋めて来てください。お願いします」


「分かりました、すぐ埋めてきます」


そんなに話したい内容なのか?というか急にどうしたんだろうか...あっ、野菜炒めとコンソメスープが完成。とりあえずご飯食べながら聞こう。


「ただいま戻りました。ケンさんの掘った穴が深くて助かりました。すぐ埋めて土を被せたので血に寄ってくるモンスターはいないと思います。あっ!良い匂い!私の血混ぜてないですけど...!」


「いや、また明日でも良くない?料理が完成しちゃったからこのまま食べよ、ね?」


「仕方ないです。明日の夕ご飯からにしましょうね、ふふ」


「えっ?う、うん。そうしようか...さあ、どうぞ召し上がれ!」


「うー!美味しいですっ!スープもそうですけど、野菜とビーフジャーキーを炒めると胡椒が効いて美味しいです。そういえばさっき弓を引いた時、指を切ってしまったんです。血がもったいないからケンさんの野菜炒めに入れてはどうです?」


「料理の感想にさらっとすごい発言するね、ユリさんは。本当にハイエルフに近い血を飲むと寿命が伸びるの?それと、傷口から菌が入るといけないから早く治癒しなさいな」


治癒ヒール、はいこれでいいですか?あくまでも伝承なので分かりませんけどきっと寿命が伸びます。たぶん大丈夫です!」


「なに少しふて腐れてるのさ。明日からね、血は。それにしても急にどうしたの?」


「急ではありません、私を助けにきてくれたかは分かりませんが子鬼ゴブリンたちを駆逐している姿を見て凄くケンさんが美しく見えたのです...」


ご飯食べながらあの時の戦闘を思い出したくないから話を進めてもらう。


「私の世界が色付いたです。あー、私もこんなふうになりたいって。ケンさんが振るう剣がどんどん速さを増して最後の1体になった時、剣筋が見えず気づいたら切り刻まれていました。圧倒的な暴力、そして死ぬかもしれない戦闘でケンさんの目が...コホん。つまり、一目惚れです。はい」


「それは、たまたま俺がその場面にいたからだよ。きっと一時的な感情かもしれない。よくかんが...」


「いえ、こんな気持ちになったのは初めてです。それにあの時の私は死ぬことしか考えていませんでした。そんな状況下で、生きるために振るう剣は荒々しく美しかった。その姿を見て、貴方について行きたいと思いました。生まれてからずっと、家族からも周りからも愛されず政治の道具のために育てられてきた私に初めて生きる意味を教えてくれた。ケンさんこそが私の生きる意味だと...」


「最後が全く意味が分からん。ユリさんは疲れているんだ。今日はゆ...」


「疲れてません!! それに、今日の訓練もボロボロになりながらも必死で生きるために足掻いて...私知らなかった。ただ他人から与えられて生きている者と全然違う。自分の力で生きている。生命力に溢れてて、あー、なんて表現したらいいのかしら!」


「落ち着け、ユリさんはたまたまその場面に遭遇しただけ。俺じゃなくてもいいじゃないのか?」


「うーん、それはないですね。これは運命です。あの瞬間あの場所で出会った偶然...運命以外の言葉が思いつかない。最初は、嫌そうにするケンさんもそそるものがありましたが...やっぱり今のケンさんが素敵です」


「死ぬ寸前で頭がおかしくなったんだ、きっとそうだ!」


「ケンさん、それこそありえません。さっきから否定的ですね...いいです、絶対に振り向かせてみせます」


ユリさんが話し終えたのと同時にご飯を食べ終わる。


「ユリさん、残りの野菜炒めとコンソメスープ食べて」


「え!いいのですか?ありがとうございます!」


はぁ、正直まだユリさんを信じられない。前の世界で女に酷い目に遭わされて以来、女に対して恐怖心があるだよ。人間不信は前からあった、でも一度信じた人からの裏切りはツラい...ダメ、このまま考え込むとそのまま引きずってしまう。


「俺は調理器具を洗うから、ユリさんは食器を洗ってくれる?」


ユリさんが頷くのを確認してから調理器具を洗う。布に洗剤を染み込ませて洗うんだけど...スポンジって偉大な。今思えば前の世界の物は全て世紀の大発見だよ。


「よし、洗い物完了。もう日が暮れているよ、一日過ぎるのが早いな」


「本当にあっという間に一日が終わりますね。前の生活では考えられません。これもケンさんに出会ってからです。感謝しています」


「どーいたしまして。洗濯物あるなら俺がやっておくけど?」


「下着だけ分けて洗うの手間がかかるので一緒に洗っていただけますか?ふふ」


「まー、同じ布だし。そんなんで俺は興奮する男じゃないからな」


「あら、残念です。ふふふ」


笑い声が怖い。笑顔が怖い。


昨日と同じように洗濯しロープにかけて干す。


「そういえば、この辺りの気候や季節はどうなっているか知ってる?」


「申し訳ありません。この辺りに関しては存じ上げないです。やはり一度、交易都市で情報収集するべきかもしれませんね」


「そうだな、食料調達のついでに情報を集めるか。洗い物終わった?」


「はい、終わりました。食休みしてから弓の訓練しましょう。ケンさんは実践で覚える方ですよね?」


「基礎はしっかり教えてほしい。そこから自分のスタイルを作ってから実践だとありがたいけど。ユリさんの判断に任せるよ」


「ケンさんって、前の世界だと運動神経が良いとか言われたことありませんか?あと、飲み込みが早いとか?」


「どちらも言われたことあるよ。むしろ周りが出来なくて、なぜ出来ないのかが分からなかった」


「不思議な方ですね、ケンさんは。そうですね、簡単に基礎を覚えていただて、そのあとすぐに実践しに参りましょう」


「クロスボウがあるだけどこれでもいい?」


「ダメです、弓は弓だけの技があったりしますので却下です」


なんでだよ、まったく。仕方ない、普通の弓の在庫が多くあるからなんでも良いや。


「ご指導よろしくお願いします。ユリさん」


「任せてください、えっへん。ふふふ」


弓が扱えるようにひたすら反復練習あるのみ。




後書き


次回 エルフと訓練

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