第9話 成功
連休といえども三日しかなかったのに、それでも休み明けを憂鬱に感じるには十分だった。
昨日は特に遅くに寝たつもりもないのに、なぜかダルい。
朝の一限目はまさに地獄のようだった。
他のクラスメイトも似たりよったりで、ドヨーンとした空気が教室に滞留している。
なんとか一限目を乗り越えて、早く玖嘉先生に癒やしてもらおうといそいそと職員室に向かう。
「失礼します……」
職員室のドアを軽く押して中に入ると、玖嘉先生のデスクから可愛い頭が覗いているのが見えた。
それだけでなんだかもうテンションが上ってきた。
近づいていくと、今日の先生はなんとツインテールにしていた。
嘘でしょ。可愛すぎる。やばい。
「先生、こんにちは」
うきうきを抑えながら努めて冷静に声をかける。
そしたら先生はキラキラした顔でくるっと振り向いて……、
「あぁ友理、お疲れ様。宿題はそっちに置いてくれればいいわ」
……あれ?
顔をこちらに向けることなく、冷たく言い切った先生に思わず呆然とする。
「あ……、はい……」
宿題を置いても、先生はこちらを少しも見ようとしない。
先生怒ってるのかな?私なにかしたっけ…?見たことない反応に冷や汗が止まらない。
「あ、あの、先生……?」
「むー!」
改めて先生を呼んでみると、先生はプイッとそっぽむいて、それから不機嫌極まりない顔で私を睨んだ。
「ヒィ……」
怖い。めっちゃ怖い。怒った先生……物凄く怖い!
「清明節……」
「は、はい!」
「二日間なんで中々返信くれなかったの!?」
その口調は本気で怒っているように聞こえる。
「そ、そんなことないです」
怒った先生にビビって脊髄反射で否定してから気付く。
先生は、多分返信が遅すぎるのだと言っている…。
「えっと、その…、宿題とか小説とか書いてたので、ちょっと遅くなったりしたかも……?」
「むー……」
その言い訳にも先生は反応することなく、私を睨み続けている。
「ご、ごめんなさい」
これは謝る他ないと素直に謝罪する。
やっぱり恋人になるってことは……難しいことだ……。
小声の謝罪で、先生はやっと小さく笑ってくれた。
私も頭にはてなを浮かべたまま、バカみたいに、あはは、と笑う。
先生の機嫌が川劇並にころころ変わるから、本当に怒っていたのか、単に私をからかっているのか判断に迷う。
「友理、この二日小説書いてたの?」
「あ、はい…、ずっと考えてはいたんですけど行動に移してなくて…、昨日やっと実現させたんです」
先生はそれ以上深く聞くことなく、軽く頷くと話題を変えた。
「それはそうと、最近授業に追いつけない感じはある?来月、中間テストあるからね」
え、もう?新学期が始まってまだそんなに経ってない気がしていたのに、もう中間テストの時期なんて。
「今のところは特には無いですね……」
「なら良かったわ。今月は忙しくなるわよ。来月には中間テストが控えているのに、今月もなにかとアニメフェアが多くて……。明日午後は生徒たちのサッカー試合の観戦に誘われてるし」
確かにうちの学校は、他と比べて勉強以外のアニメフェアが多い。
せっかくだから私も参加してみたいけど、テスト勉強しなくちゃいけないし……。
忙しそうな先生を見ていると、教師も大変なんだなと思う。
大変な一月になりそうだ……。
夜、家に帰ってメールをチェックすると、出版社から返信が来ていた。
思っていたよりも随分と早い返事だ。
緊張と興奮が入り混じった面持ちでメールを開く。
「お世話になっております。投稿いただいた作品を、本社の雑誌に掲載することとなりました。サンプルと原稿料につきましては、詳細をおってご連絡いたします。次回の投稿を、心よりお待ちしております」
とても簡潔明瞭な返信が滑り込むように頭に入ってくる。
掲載…!選ばれたんだ!私の作品が!
あんな拙い文章が掲載されることになるとは考えもしなかった。
まるで期待していなかった分、喜びより驚きのほうが大きい。
先生に言おう?
でも……先生は二次元文化みたいなものには大して関心が無いから……、朝話した時も大して反応してなかったし……
私はこのことを先輩たちと恵ちゃんにメッセージを送った。
ヴーッ、ヴーッ。
メッセージを送ってすぐにスマホが電話の着信を告げる。
恵ちゃんだ。
「友理ちゃん?メッセージ見たよ!当選したんだって?本当に?凄いよ!おめでとう!」
もしもしすら忘れて、恵ちゃんは高ぶった声で祝福してくれた。
「あ、ありがとう!」
「んー…?なんか友理ちゃん随分と落ち着いてるね?」
「どちらかと言えば、恵ちゃんがはしゃぎ過ぎなんだよ」
まさかわざわざ電話してくるとは思わなかった。
「発売されたら私絶対に買うね!」
「ありがとう、でも買わなくていいよ。恵ちゃんには後で送るからよ、小説の原稿……」
「もう!それじゃ意味ないでしょ!買って保存しておくんだから」
「え、保存?あ、ありがとう……?」
この間のアニメフェアの後から、恵ちゃんは、なんとも言えない感情を私に隠すことなく表現するようになった。
「小説書いたのって、この間買った本を見たから?」
「うん、あの人が書いた作品を見たら私も書いてみたくなって。昨日一日と、一昨日の夜はほぼ徹夜で書き上げたの」
「うわぁ、すごいね友理ちゃん。行動力満点だ……」
「そんなことないけど……ありがとう!」
「なんか今日は学校凄く疲れたー。友理ちゃんは?」
「私も。一日時間過ぎるのが凄く長く感じたよ」
「そうそう……。それなら電話もう切るね……!お互い早く休もう~」
「うん、そうだね、おやすみ」
「わぁ……」
「どうしたの?」
「友理ちゃんからのお休みだ……素敵……」
「え……どういうこと……?」
「いや、なんでもない、なんでも……」
プツッと電話が切れた。
なんでしょ、恵ちゃんまた変なこと言ってた。
え、『また』……?
そう言えばこの間一緒に出かけた時も恵ちゃん、先輩たちに嫉妬みたいなこと言ってたな。
あの時の恵ちゃんの態度も、言葉も、今日の電話の様子も、その理由をよく考えると……一つの答えに行き着いた。
恵ちゃんは、私のことが『好き』なのだと言いたかった……?
……もし本当にそうならどうしよう……。
恵ちゃんは本当に私のこと好き?
恋愛関係の好きなの?
私に恋してるの?
でも考えてみると…女の子の中には友達に対してもこういう態度をとる子もいる。
恵ちゃんも積極的な性格しているし、その可能性はある。
私が誤解しているだけかな……多分。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます