第5話 まさかの結果
「う、嘘ですよね?」
それは、前の人生以上の衝撃を与えた。
あまりにも信じられなくて、思わず聞き返す。でも、帰ってくる答えが望んでいるものではないと、頭のどこかでは分かっていた。
希望調査の紙を提出してから、私の世界は輝きを取り戻した。自由。その言葉が、私を元気にさせてくれた。
もう、御手洗君のことで怯える必要は無い。それだけで、私は幸せだった。
でも、私はそう簡単に幸せにはなれないらしい。
深刻な顔の林先生に呼び出された時、嫌な予感はしていた。気のせいだと自分を奮い立たせたけど、無駄な努力でしか無かった。
呼び出された職員室、先生の手には見覚えのある紙があった。話の内容がある程度予想ができて、緊張が高まる。
「何か、ありましたか?」
動揺を悟られないように気をつけて、私は質問をした。気を抜くと震えそうになるので、自分の腕を力強く掴んで何とか耐える。
微妙な表情をした先生は、本当になんと言っていいのか分からない顔をしている。嬉しいような残念のような、二つの感情が混ざっているみたいに見えた。
「話というのは、AI相性診断のことなんだが……いい話と、悪い話がある。どちらを先に聞きたい?」
いい話と悪い話。それは私にとっては、言葉通りの意味を持たないかもしれない。どちらが先に聞きたいと言われても困る。でも選ばせる気しかないみたいだ。
ため息を飲み込んで、渋々選ぶ。
「それじゃあ、いい話を先に聞かせてください」
どうせ、どっちの話も聞くことになる。それなら、まだいい方を先に知っておきたい。
どんな話が待ち受けているのか。身構えていた私は、次の言葉に固まるしか無かった。
「喜べ! 相性診断で100パーセントの人がいたぞ!」
「……え」
「相手は、隣のクラスの御手洗だ。御手洗のことは知っているよな?」
今、なんと言った。相性100パーセント? 御手洗?
いい話だという期待はしていなかったけど、これはあまりにも酷すぎる。考えられる限りで最悪の話だ。
「う、嘘ですよね?」
私の聞き間違いじゃないだと、初めの言葉を絞り出す。頭の中では疑問で溢れかえっていた。
どうして。どうして。私は名前を書いていないのに。一度書いてしまった紙は、戒めのために持ち歩いているけど、絶対に落としていない。誰かに見られてもいない。
それなのに、どうして私と御手洗君の相性が調べられたんだ。
自分が上手く立てているのか不明なぐらい、地面がゆらゆらと揺れている気分になった。ちゃんと今、私は立っていられているのだろうか。自信が無い。気を抜いたら、絶対に倒れてしまう。それでも何とか踏ん張ったのは、状況を知るためだけだった。
私は絶対に名前を書いていない。つまり、こんな状況にしたのは、犯人は一人しかいない。
「……御手洗君が、私の名前を書いたってことですか」
それ以外に、調べられるわけがなかった。私と御手洗君に接点はないのだから。
でも、どうして御手洗君が私の名前を書いたんだ。私達の間には、何も関わりがない。書かれる理由がない。
「そうだ。2人は仲が良かったんだな。全く知らなかったよ」
私だって知らない。決して仲は良くない。
一人で納得している先生が憎らしかった。周りのことを気にせずに叫びたい。
「教師人生をやっていて、まさかこんなことがあるなんてな。とても光栄だよ」
私は最悪すぎて死にそうだ。せっかく未来を変えたはずだったのに、やっぱり逃れることが出来ないのか。絶望で目の前が暗い。
今すぐ御手洗君のところにいって、どうして私の名前を書いたのかと聞き出したかった。ただ単に、意味もなく書いたのだとしたら許せない。弄ばれているみたいだ。
先生が嬉しそうに話しているのが目に入るが、何を話しているのかは耳に入ってこなかった。どうせ聞こえたところで、私にとってはいい話ではない。
御手洗君や家族と、いつ顔合わせをするとか、そんなことだろう。
私が会う気がないと分かったら、絶対に頭がおかしくなったと思われる。それぐらい、このことは素晴らしい話だと、世間では考えられているのだから。
そこで、ふと思い出す。
先生は、いい話と悪い話があると言っていた。認めたくはないが、これがいい話だとしたら、悪い話というのはなんだろう。
「あの。先ほど言っていた、悪い話というのはどんな内容なんですか?」
「あ。ああ、そのことか。別にいいんじゃないか。そこまで重要な話じゃないし」
いい所で水をさされたとばかりに、先生が顔をしかめた。話すのさえも嫌そうだ。
その反応が、逆に私に希望を与えてくれた。もしかしたら、何か逆転の一手になる可能性を秘めている。
「ぜひ、教えてください。知りたいです」
すがりつくしかない希望だったので、私の口調は自然と強いものになってしまった。先生も気圧されて、顔を引きつらせながら口を開く。
「た、高橋が出した希望調査の結果なんだが……実はその、0パーセントだったんだ」
「え……。ぜ、0パーセント?」
思いもよらない言葉に、私は絶望さえも吹っ飛んで、裏返った声が出てしまった。
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