お客様の中にアニオタの方はいらっしゃいませんか⁉︎

ぐらにゅー島

え、医者じゃなくて?

「お客様の中にアニオタの方はいらっしゃいませんか⁉︎」


日曜の昼下がり。とあるショッピングセンターの店内アナウンスがそう告げた。

店内にいた客たちは怪訝な顔をして、互いに顔を見合わせる。はて、店員は何を言っているのだろうと。


「はい、私がアニオタです!」


突如として沈黙を破ったのはひとりの少女だった。

暗めの茶髪を胸まで伸ばしており、どこかの高校の制服を着ている。

どこか嬉しそうな顔をして、意気揚々と手を上げている。

「ああ、アニオタ様でしたか!どうかこちらに…!」

どこからともなく現れたメガネの冴えない店員が、彼女を連れて行く。


そこにたまたま居合わせた少年がいた。彼もまた、アニオタの彼女と同じ高校の制服を着ている。

「…え?」

彼も何が起こったのかわからないらしく、眉をひそめる。しかし、ことの顛末が気になってしまったのだろう。彼女の後を追っていった。




「ここです、アニオタ様!この方を助けてあげてください…!」

ショッピングセンターの最上階。映画館の目の前へ彼女は連れて行かれた。

「う、ううっ…。」

そこには何かに苦しむ男性の姿があった。

「おお、これは…。」

少女はポツリとそう呟く。

「あ、あの…!」

そこに、先ほどの少年がやって着て、より困惑した表情を浮かべる。

「こういう時って、アニオタじゃなくって医者とかじゃ無いんですか?この人苦しんでるみたいですし…。」

少年はアニオタの少女を助けようとしたのだろうか。顔を真っ赤にして店員に訴えかける。おそらく少女と少年はそれほど深い関係では無いのだろう。これは勇気ある行動だった。

「いえ、アニオタであってます。普通にこのショッピングセンターの隣病院ですから、医者は間に合ってますし。」

店員は平然とした表情で言う。

「あ、えっと…。で、でも彼女は清楚ですし、アニメなんてそんなに見ないんじゃ無いですか?」

少年は心にダメージを負ったようだったが、ギリギリで持ち直してそう言う。

「えっと、もしかして田中くん?バレたなら仕方ないかな。私…。隠れオタクなの。」

「え?」

「隠れオタクなの」

「あ、それは聞こえたからいいんだけど…。」

田中くんと呼ばれたその少年は、理解が追いついていないようだった。

「そんなことよりアニオタ様。こちらのお客さまをお助けください!」

店員は慌てたように彼女に訴えかける。


「…わった」

倒れた男の口から何か言葉が漏れる。

「終わった…」

絶望の表情で彼女に訴えかける。

「好きだったアニメが劇場版で終わってしまったんだーっ!」

ブワッと男性の目から涙が溢れる。大の大人がその程度のことで何を泣いているんだと、周りからの視線は冷たいものだった。

「うん、うん…辛いよね…‼︎」

しかし、少女は違ったらしい。彼女も目に涙をいっぱいに溜めて男性の背中をさする。

側から見たら完全に不審人物の集まりである。しかし、アニメ好きの人にとって、好きなアニメの完結は死活問題。アニメ好きの間で、見えない絆が生まれた。

「でもね、終わりって始まりじゃない?新しいアニメと出会うチャンスなんだよ!幸い、私はだから色々なアニメを紹介できる!」

彼女は、男性にガッツポーズをして見せる。まるで、勇気づけるように。

「あ、貴方こそがアニオタなのですか…⁉︎」

男性は急に息を吹き返すように目を輝かせて少女を見る。

…。それはアニメ好きの間では神として扱われる。

確かに一般の人から見たら、アニメグッズを付けていたり、幾つかアニメを見ていたらもうアニオタに見えるだろう。

しかし、そんな人からすると「俺如きがアニオタを名乗るのはおこがましい」のである。

アニオタとは、アニメに取り憑かれ、アニメのために生きていると言っても過言では無い。

今季のアニメはほとんど全てチェック、部屋はグッズで埋まっている。人生の大半をアニメに費やし、口癖は「え、タペストリーを飾る壁がない?天井がまだ残ってるじゃん。」である。

まだまだあるが、とにかく「やばいやつ」である。

彼女は、そのを名乗っているのだ。


「ふふ、例えばラブコメならこれがオススメ!【ケアレ・スミスを愛してる!!!】」

「な、なんだその面白そうな題名は!」

男性は急にノリノリになってそう言う。

「変な名前の男の子が変な名前の女の子とラブコメする話だよ。」

「え、説明雑!でも面白そうだし見てみるよ!他には何か無いの?」

さっきまで苦しんでいたとは思えないほど元気になったような様子で男性は食い気味に彼女に尋ねる。

「ふふふ、私の最推し作品はコレ!【君は誰?僕も誰?】ミステリー作品だよ!まあ、作者はラブコメのつもりって言ってたけど…。」

コレはミステリーだなぁ、と彼女は小さく言った。

「み、ミステリー⁉︎俺ミステリー大好きなんだ!絶対に見たい!」

「全くラストが全くよめない展開。凄すぎるよ、絶対に読むべき‼︎」

アニメ好き同士、男性と少女は話が盛り上がっているようだ。アニメロスの時、心を埋めるのはまたアニメなのである。男性は完全復活した。店員の、アニオタを呼ぶと言う行動は正しかったのだ!


「何か、短くてサクッと見れる作者はありますか?」

男性はワクワクした様子で尋ねる。

「あ、私、短い話は疎くって…。」

いくらアニオタと言っても、少女は高校生である。短い過去では全てのアニメを網羅する事は不可能だった。二人の間に気まずい雰囲気が流れる…かに思えた。

「…【休校】」

「「え?」」

田中くんだった。田中くんは、突如として会話に入ってきたのである!

「いつから僕がでないと錯覚していた…?」

しかも、田中くんはかなりカッコつけてそう言い放った。周りからの視線が針のように田中くんに突き刺さる。痛い、かなり痛い。

「か、カッコいい…!」

でもそれがアニオタには刺さってしまうのだ!

「【休校】は、名前の通り学校が休校になる話。何気ない言葉の意味を考えさせる素晴らしい作品だよ。」

田中くんはドヤ顔をした。おそらくこの様子を彼のお母さんに見せたら泣くだろう。

「さ、さすがアニオタ様…!今すぐ家に帰って全て見たいと思います!」

ありがとう、と言い残すと男性は走って帰って行った。


「えっと、佐藤さんってアニオタだったんだね…!」

田中くんは少女に恐る恐るといった様子で話しかける。

「う、うん。私は田中くんがアニオタなの、実は知ってたよ?」

えへへ、と言った具合に佐藤さんと呼ばれた彼女は小さく笑う。

「この前読んでたの、ラノベでしょう?私も読んでるの!」

「佐藤さんも⁉︎もしかして僕達気が合うのかな?」

田中くんにそう言われると、佐藤さんは顔を赤くした。

「え、えっと…。私もずっとそう思ってたの!」

「え⁉︎じゃ、じゃあ連絡先聞いてもいいかな…?」

「こ、こちらこそお願いしたいです…‼︎」

二人の間にはアニオタ同士の絆が結ばれ、それとはまた違った良い空気が流れる。

二人はお互いに目を合わせると、どちらからともなく、ニコッと笑った。










「は?リア充は爆破しろよ。」

店員はつぶやいた。彼もまたアニオタなのだ。

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お客様の中にアニオタの方はいらっしゃいませんか⁉︎ ぐらにゅー島 @guranyu-to-

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