幹界 ∹kankai⊶

根暗木 爐維音

第1話 枝

_ 昔からすると今はいつだって未来。_

_ だが、この世界には過去はない。 _

_ だから未来もない巻き戻せない。 _

 【あなたは過去を思い出せますか?】


私はそこでページを人差し指で閉じて、

その本を読むのをまた次の機会にした。


 近いと言っても学区は違う全国展開している

本屋でひとつだけ心を不安にさせるような

触ってもいないのに視界に入った瞬間に

ぬくもりを感じるような焦茶色の書物。


まるで売り物ではないのだろうが、

私は興味本位で読んでみた。


論文の様だったので途中で時間が来たのも

あってが飽きたので読むのを辞めた。


そして私は追われる様に

本屋を後にしてアートスクールに出掛けた。


・○*○*・○・*・○*・○*・・


 たった7畳半しかないのが

私だけの子供部屋だ。デッサンなら

ともかく、油絵なんて描けやしない。


アートスクールから帰ってきたものの

家具や荷物などもあるためくつろげやしない。


 若くして亡くなった親戚の網野おばさんが

最後にくれたお年玉を出してきて

私はこれから始まる人生の分岐点のために

機材を買いに出た。


亡くなったおばさんがくれた

この貴重なお金を何に使うか

迷ったうえでの自分の判断だ。


昨年結婚して子供ができる予定だったが

哀しすぎる知らせだった。


そんな迷ったなかで何故、機材を

買うことになったかというと

このSNS社会に流されまくった末に

動画投稿者というのに興味を持ってしまった。


 もとから興味や、やってみたいと思う心は

あったのだが今回は具体的に方針を決め

やってみようと思えたのだ。


小学生の頃に見ていた歌い手と呼ばれる部類の

グループに所属している動画投稿者の方が

辛かった人生を話したあとに

『次に輝くのは君たち』 と言った。


失礼な言葉だが綺麗事を並べた中の

ひとつにしかきこえなかった。


だが私は少なくともその輝く人に成りたかった。


 そんな機材を買って浮かれ気分のまま

挑んだ次の日の学校では

私以外のみんなも浮かれていた。


特に女子達が言い方は悪いが騒がしかった。


どうやら、その歌い手に属する違う

同年代の有名人が来るらしい。


私は彼の姿を見たときに思った。

この薄暗い雲の広がる世界の下で生きていく

私達のなかで科学的に無いと

おかしい『太陽』を見た、

たった一人の少年かの様な素敵な笑顔だと。


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