第8話 初依頼-Side レオ
リファールと別れ、ギルド"駿馬の嘶き"で冒険者になった彼の幼馴染たち。レオ、ニーナ、クロエの三人はダンジョンを訪れる。彼らの受けた依頼は薬草採取。第一階層に生える薬草を規定数採ってくるという駆け出しの冒険者が受ける定番の依頼だ。
いつも行動を共にしていた一人がいない状態だが、少なくとも第一階層での戦闘においては特別支障は出ていない。彼らは全員、冒険者としてオーソドックスながら優秀なスキルを授けられている。
「オラァ!」
レオが声を出し気合を入れながら剣を振るう。ゴブリンの腹の芯を捉え、その小さな体を弾き飛ばす。『剣術』スキル。前衛の王道スキルだが、最も優れているのはその授かる人数の多さだ。他の前衛スキルに比べて授かった人数が多いということは、それだけ世間にノウハウが蓄積されているということ。武器生産の面でも剣術スキル持ちが多ければ、剣を作ればとりあえず売れるという状態のため供給も優先的になる。
「ニーナ、行ったぞ!」
剣術の欠点としてはそのリーチの短さから、バラバラに仕掛けてくる複数体の魔物を一度に薙ぎ払いづらいということがある。これは『剣術』スキルを更に鍛えていけば自然と解消できる問題なのだが、討ち漏らしは初心者の間は付きまとう問題だ。そしてそれをカバーできるスキルというのも存在する。
「分かってる、『火炎弾』!」
ニーナの言葉と同時、彼女の前に手の平大の火の玉が発現する。現れた火の玉は二つに分裂し、迫りくるゴブリンを急襲した。その炎は見かけ倒しではなく、ゴブリンを包み込むとそのまま全身を焼き焦がす。ゴブリンたちが声を上げて悶え苦しむのも束の間力尽きる。
『炎魔術』は攻撃系の魔術の中でも最もオーソドックスで、なおかつ威力のある魔術を操ることが出来るスキルだ。特に『火炎弾』はスキルを授かった直後から扱えるにもかかわらず、魔力を多く使う事で複数体を対象にすることができる。冒険者パーティは前衛二人の計四人がベストと言われることもあるが、『炎魔術』を扱える魔術師が一人いれば前衛の不足をカバーすることが出来る。
「よっし。完勝完勝」
レオがうんうんと頷いて、ゴブリンの屍を踏み越えて草木が生い茂る部屋へと入る。
「おーいクロエ。薬草ってどれがいいんだっけ」
レオが後ろをついてきているクロエに声をかける。クロエのスキルは『治癒術』であり、薬草の目利きについては日頃の勉強の賜物である。
「……これとこれと、これは大丈夫」
クロエは素早い手つきと正確な目利きで綺麗な薬草を積んでいく。あと少しで指定された数に届くかといったところで、薬草を掴んだクロエの手が止まった。
「……これはどうだろう。ちょっと良くないかも」
クロエが手に取った薬草は、その一部が若干千切れている。総面積が減っているのもそうだが、千切れた薬草は効果が少し落ちることもある。そういった件を懸念しての言葉だったが――
「かもってことはいけるかもってことじゃねーの?」
「これがあれば指示された数集まるから、これでいけるならそうしたいわね」
「で、でも……」
"ポーションを作る人のことを考えたら、なるべく良いものを探したほうがいい"。クロエはそう反論しようとしたが、出来なかった。
「だな。よし、ゴブリンの皮だけ剥いで、とっとと帰ろうぜ」
レオは先ほど倒したゴブリンの内、剣で斬り倒した一体の剥ぎ取りを始める。本で読んだ内容で、"剣で斬りつけたゴブリンの皮を剝ぐ方法"と題されたやり方だ。そして彼の落ち度は二つ。一つは剥ぎ取り専用のナイフが無いため、自分の剣を代用したこと。二つ目はその本の内容には注釈が付いており、"ゴブリンの中でも特別大きな個体にのみ応用できる手法"とされていることだ。
◇◆◇◇◇◇
レオたちは無事にギルドへと帰還した、が。
「……これはダメだ」
駿馬の嘶きのギルドマスターであるドーガは、レオたちが採ってきた薬草を検分した。そしてクロエが懸念を示した薬草を見ると、首を横に振るのだった。
「でも俺たちが入った部屋にはそれ以外ありませんでした」
「そういう場合は次の部屋を探してでも規定数見つけてくれ」
「そもそもパーティの頭数に比例して規定数を上げるというのは非効率では?」
「……言っちゃ悪いが、薬草なんて冒険者なら誰でも採りに行ける。一人頭に最低限の報酬を出して、初心者を救済する意味合いが強い」
レオとニーナの抗議を突っぱねたドーガは、深く溜息をついた。
「今から戻ってもしょうがないし、不足分の薬草代を報酬から差っ引かせてもらう」
そう言ってドーガは報酬の入った袋から幾つかの硬貨を取り除いてから袋を渡す。額面は150G、一人頭50Gである。数日は過ごせるが、リファールたちが受け取った報酬とは天と地ほどに差がある少なさだ。このまま引き下がれないと、レオは切り出す。
「あの、俺ダンジョンでゴブリン狩ってきたんすけど」
「ん。まぁゴブリンくらいな……」
「皮が売れるんすよね。剥ぎ取ってきました」
そう言ってレオは、自分が剥ぎ取ってきたゴブリンの皮を見せるが、ドーガの反応は芳しくない。
「……これは使い物にならん」
「でも、本で読んだ通りにやりました」
「普通に斬って捨てたゴブリンを剥いだな? これは体格の大きいゴブリンなら出来るやり方だが、小柄なゴブリンでこの捌き方だと面積が足らん」
「そんな……」
「次は依頼の本題の方にキチンと力を入れて、真面目にこなしてくれ……皮は処分に困るなら置いてってくれたらいい」
「……うす」
少ないながら報酬が入った袋を受け取ったレオたちは、背を丸めてギルドを去るのだった。
◇◇◇◇◆◇
ギルド"駿馬の嘶き"は所属冒険者の宿としての機能を随分前に失っている。所属冒険者が増え過ぎたからだ。その代わりに出来たのが酒場な訳だが、店じまいが終わった後のこの酒場は、ギルドマスターの貸し切りと化すのだった。
「……ハァ~~~~!!!」
雄たけびにも似た嘆息が響き渡る。ドーガは自分のギルドの酒場を貸し切りにして酒を煽りながら、日々のストレスを爆発させるのが日課となっていた。
「でもでもだってってうるさいんじゃ! うちは託児所じゃねぇんだぞ! でもなぁ、最近の若いのはすぐ辞めちまうからなぁ! こっちも面と向かって怒鳴りはしなくなったがぁ!!!」
「今日はずいぶんな荒れようですね」
ドーガに臆さずそんなことを言うのはロビンだった。彼はウイスキーの入ったグラスを手に、ほんのり頬を赤く染めている。ロビンは昔"駿馬の嘶き"に所属していた冒険者としてドーガと親交が深く、たまにこうして一緒に酒を飲んでいた。
「……そういやおめぇん所に行った若いのはどんな感じだ? そろそろ初依頼は行ったか?」
「えぇ。しっかり成功してくれました。少し優しすぎるのが難点ですが、素直で元気な良い子たちですよ」
「……うちはまぁ、使えそうなのは3割くらいかな……」
駿馬の嘶きの新入りは、なにもレオたちだけではない。むしろそこそこの質の冒険者を安定して雇うための大量雇用だ。粗方の新人が冒険者としてデビューし終えた時点で、ドーガの中でそういう振り分けはほとんど済んでいたのだった。
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