ガーディアン入団

第19話 狼少女のガーディアン入団

 呪薬の栽培所の摘発から、一週間経った日の昼休み。

 アタシはいつもの校舎裏じゃなくて、ガーディアン本部を訪れていた。

 その理由は。


「と言うわけで、我々ガーディアンは本日付けで君を、新メンバーとして迎え入れます。よろしくね、ルゥ」

「ああ。力になれるよう頑張るよ」


 返事をすると、パラパラと拍手が起こる。


 転校してきた時はこんな風に歓迎されなかったから、初めての経験。なんだかこそばゆいな。


 部屋の中にはトワ以外にも、ハイネや先輩達といったガーディアンのメンバーが勢揃いしていて、アタシの入団を祝福してくれている。

 いや、祝福と言うには一人、仏頂面してる奴もいるけど。


「ルゥさん。入団は認めましたけど、あんまり調子に乗らないでくださいね。そもそも能力を買ったと言うより、アナタを野放しにしてると何をするかわからないから、首に縄をかけることにしたのですからね」


 嫌味ったらしく言ってくるのは、エミリィ。

 まあ間違っちゃいないから、反論はできねーんだけど。


 この前、ハイネが提案してくれたガーディアンへの入団。

 あれから本格的に協議が交わされて、結果こうして入団が認められたのだ。

 密売組織のアジトを見つけられるだけの嗅覚と根気があるなら、ガーディアンでも活躍できるだろうって。


 まああの時は囮捜査の現場に割って入ったから、迷惑もかけちまったんだけど。

 だから当然、反対意見も出たみたいだけど、最終的にはさっきエミリィが言った理由で承諾されたのだ。


 野放しにしてたら厄介だから監視も兼ねて入団させるなんて、きっと後にも先にもアタシだけだろうなあ。

 伝統あるガーディアンの歴史に、負の一ページを刻んでしまったんじゃないか?


「まあアタシも、迷惑かけないようにするから。エミリィもよろしくな」

「ふん、ガーディアンの品位を落とさないよう、気を付けてくださいね」


 握手を求めたのに、プイとそっぽを向かれてしまった。

 なんだよ、人がせっかく香水の匂いを我慢して、歩み寄ったってのに。


「エミリィは、やっぱり不満かい? 大丈夫、単独行動はしないよう、ちゃんと言い聞かせたから。ルゥはいい子だからしっかりやってくれるよ」

「もう、トワ先輩はルゥさんに甘すぎますわ。何が起きても知りませんわよ」


 あーあ。エミリィのやつへそ曲げちゃった。

 この調子じゃ、アイツに認められるのは当分先になりそうだ。まあでも。


「あまり気にするな。守るべき事を守りながら、結果を出していけばいいさ」


 そう言ってくれたのはハイネ。当然と言えば当然かもしれないけど、言い出しっぺのコイツはアタシを認めてくれてるみたいだ。

 それにこの前の一件以来、何となく態度が柔らかくなった気がする。


 呪薬の件でハイネがどれだけ悩んできたかは分からないけど、吹っ切れるきっかけになってくれたんなら嬉しいな。


「けど入ったはいいけど、何をやればいいんだ? あの呪薬の密売組織の、残党を探すとか?」

「いや、そっちは騎士団に任せるよ。この前の件で、向こうも痛手を食らってるはず。この状況でまたラピス学園に関わろうとはしないだろうからね」

「勘違いの無いよう言っておきますけど、わたくし達が守るのは学園とそこに通う生徒。相手が手を出して来ないのなら、わざわざ首を突っ込んだりはしませんわ」


 え、そうなの?

 てっきり徹底的にぶっ潰すのかなーって思ってたけど、たしかによく考えたらそれは騎士団の仕事だ。

 学園さえ守れればいいってわけじゃないけど、よく考えたらアタシ達はまだ学生だしなあ。

 無闇に介入したらかえって迷惑がかかるかもしれない。実際にそれをやってしまったアタシだから、よーくわかる。 


「まあ密売組織のことは置いとくとしてルゥ、それにハイネ。二人にお願いがあるんだけど、良いかな?」

「お願いって、アタシ達に?」

「ああ。ハイネはしばらくの間、ルゥの教育係になってくれないかな。校内外のパトロールの仕方や、書類の書き方とかを教えてほしいんだ」

「俺が? まあ別に構わないけど」

「ありがとう。本当は俺が教えてあげたいんだけど、同じクラスの方が何かと相談もしやすいだろう。ハイネ、頼りにしてるよ」

「わかった」

 

 同じクラスでもエミリィと組ませないあたり、トワも配慮してくれたんだろう。

 当然アタシも、自分の事を嫌ってる奴よりハイネと組んだ方がやり易い。


「しっかり頼むよ。今月は舞踏会もあって、浮き足立ってる生徒も多い。小さなトラブルが、起きるかもしれない。しっかり対処するように」

「舞踏会って言うと、例のアレだな。分かった、やってみるよ」

「よろしくね。そうそう、それと……」


 トワは顔を近づけてくると、そっと耳元で囁く。


「ルゥのドレス。もうすぐできるから、期待しておいて」


 マジか。

 周りに気づかれないよう、静かに拳を握る。


 ドレスは少し前にトワに連れられて仕立て屋に行き、どんなのにするか選んでいた。

 ドレスなんて着たことないから、何をどうすればいいか分からなかったし、体のあちこちを採寸されるのは面倒だったけど、トワが「きっとよく似合うよ」と言ってくれたのが嬉しくて、張り切ったんだよな。

 そっか。舞踏会ではそのドレスを着て、トワと踊れるんだよなー。ふふふふふ~♪


 想像するとにやけてくる。だけどそんなアタシを、ハイネがジトっとした目で見る。


「ルゥ、尻尾が揺れてるぞ。何を考えてるかはだいたい分かるけど、俺達は浮かれてる生徒を正す側だってのを忘れるなよ」

「わ、分かってるよ。よろしくな、ハイネ」


 慌てて表情を正す。

 そうだよな。今日からガーディアンなんだし、アタシが浮かれてちゃいけねーな。


 よーし、トワやハイネの足引っ張らないよう、頑張るぞー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る