第5節 ツゥーバの日誌

―——私の日誌

 Tu-A-CA

 アーカイブに残っていた日記、と言う物があり、私もまた、やってみようと考え、始めてみる。

 どうやら、紙に書いている物が多く、私も施設で使われていないノートをかき集め、書くことにしようと考えた。

 まず、今日は特に変わった事は無い。

 それ程、この場所では変化、と呼ばれるものはない。

 日記、というものは変化や心情を綴るものだとアーカイブに記載されていた。

 だから、これからも、随時修正しながら日記という物を書いていこうかなと考えている。

 

 Su-B-L

 前回の反省 書き方を変える。

 今日は、カミサマに庭園を見せてもらいました。

 今までアーカイブでしか確認できなかった植物たちが目の前に広がっていて、なぜだけど嬉しかった。

 初めて植物を触った感触は、何というべきは冷たかった。

 氷や鉄のような無機質的なものではなく、水や初めて触れた土と同じ温かな冷たさがあった。

 あとで、調べてみたのですが、どうやらこれは、「涼し気」ともいうらしい。

 冷たい、寒いという言葉では、表現できなかったけど、涼しい、という言葉があっているように感じる。

 そういえば、もう一つ、書くことがあった。

 それは、虫、というものを初めて見たことです。

 アーカイブで閲覧した、蝶や蜂など見かけましたが、詳しいことは後で調べてみようかと思います。


 Fr-B-Z

 前回の反省 書き方を変える。

 今日は、楽しみにしていた牧場に向かいました。

 先日、見かけた蝶や蜂といった生物たちが生息するエリアで、そこには様々な動物がいました。

 なんというべきか、本物が動いていたという感想が真っ先に出てきました。

 それに、温かった。変な臭いがした。

 けど、自分より小さな生命を手にするというのは、温かでこんなに重いのかと、認識してしまった。

 肉と骨がつまったそれに、真にこれと生きているのだと、私は再確認された。


 Tu-G-N

 今日、カミサマのもとに見たことがない人がやってきた。

 カミサマと同じ白衣を羽織っていたため、カミサマと同じカミサマなのだろう。

 けど、なぜか、カミサマたちは何か言い争っている様子だった。

 物陰から話を聞いていたが、声が小さく聞き取れなかった。

 けど、両者の話からその内容にはただならぬものがあるのではないかと感じた。


 We-G-O

 今日もまた、あのカミサマがやってきた。

 カミサマとは違い、その人は、真剣なまなざしでカミサマのことを見つめ、驚きと憐みの瞳で私のことを見つめてくる。

 なぜ、あの時、そのような瞳を向けられたのか分からない。

 けど、それは、カミサマとは違う。

 無関心とは違う瞳であったことだけは記憶している。


 Sa-G-P

 今日もあの方がやってきた。

 今日も、カミサマと言い争い、私に向けて憐みの瞳を向け、何か語り掛けてくる。

 だけど、記憶にはない。

 いや、記録に残すまでの物ではないと、私自身が勝手に否定した。

 だっていやでも否定したくなる。

 『君は禁忌なのだと』

 そんな、わからないことを言われてしまえば、


 Su-G-Q

 今日もあの方は来ている。

 ここ数日、この場所に来っぱなしだと判断する。

 もう何度も来てくださるため、見慣れてしまった。

 今日も言い争いをしている。

 けど、いつもと違う。

 カミサマが怒った。カミサマに対して。

 けど、カミサマが初めて大きな声を上げて、表情を変えた。

 私さえも見たことない顔を見せた。

 さすがに驚いたけど、私以上に来訪していたカミサマの方が驚いていた。

 数秒の会話の無い時間が作られると、カミサマも落ち着いたような姿を見せていた。

 やっぱり、今こうして、日記であの時のことを書き綴っているけど、やはり、深くまでは書けない。

 あの時の光景は、どうにも、私の用いる言葉にはできなかった。


―-C-V

 今日、カミサマからとある話を聞いた。

 『知恵の実』という話。

 禁断の果実、黄金の林檎、アンブロシア、不和の林檎、神話などに多くの名前がある。

 なぜ、カミサマは、そのような話をしてきたのか分からなかった。

 だけど、興味深い話ではあった。

 カミサマは『知恵の実』と呼ばれる果実は、人類の進化の過程に与えられる力であり、皆同じものだと言う物やはたまた似ているだけで全て別種であると言う論文も紹介され、楽しい講義であったと考える。

 けど、カミサマはどこか懐かしそうな顔で話をしており、なぜ、そのようなをするのか、と質問してみた。

 すると、カミサマは、かつての仲間が研究していた内容だから、と冷たい表情で答えてくれました。

 だけど、その顔はアーカイブで時折、見れる『哀愁』に近い物では無いかと、私は思った。


a――C―・・・

 私は、カミサマを愛している。

 私を作った創造主に感謝を述べ、生み出したことに愛と奉仕というものをもって返そうかと考えている。

 私のこの想いに、カミサマはどう思うのだろう?

 私の愛に、あの人は答えてくれるのだろうか?

 いつも憐れみを込めた瞳をあの人の……。


 ――私はカミを愛す、だがカミは私を愛するのだろうか?

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