秋は夕暮れ
秋は夕暮れ。夕日の差して山の端いと近うなりたるに、からすの寝所へ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛び急ぐさへあはれなり。まいて雁などの連ねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。日入りはてて、風の音、虫のねなど、はたいふべきにあらず
これは清少納言の『枕草子』の「秋」の趣を読んだ有名な句。
この季節、夕焼けに染った空を見上げると、まるで清少納言と一緒に見ているような気持ちになるほど、この情景は千年以上前から変わらないようだ。
黒いカラスが二、三羽、群れという程でもなく連れ立って、オレンジ色に染った山の方へ、カァカァと鳴きながら飛んでいく様子は、平安の頃と変わらないのだろうか。
雁の群れは見ることは出来ないが、その代わりに、なんの種類か、小さい鳥たちが群れだって家路を急いでいる。点にしか見えないが、翼を懸命にはためかせているのは遠くながら感じられる。
日が沈みかけて耳を澄ませば、どこからともなく聞こえてくる鈴虫の声。
いや、あれはコウロギだろうか? リンリンリンと風情ある音色で、騒音になる一歩手前の音量で鳴くのがまた絶妙だ。
秋は二番目に好きな季節。昔から春が好きだった。たとえ体調を崩しがちと言われている季節でも、これから暖かく、明るくなる、と言うだけで心がウキウキしてくるのだ。
秋は蒸し暑かった夏を我慢したご褒美の季節のように思われがちだ。
しかし、夏は悪者ではない。大好きな海、キンキンのかき氷を食べられるし、身軽な服になれる開放的な季節。
秋は少し緊張する。その先に冬を控えているから。だんだん寒くなるのではなく、冬は突然来たりする。
昨日までカーディガンで過ごせていたのに、今日はコートがいる冷たさ。冬に入る覚悟を決める季節だ。
私は冬も好き。もうどっかり寒くなって、足元が冷え冷えな程の冬になれば、覚悟が決まる。防寒のために買った新しいコートとブーツの出番だ。
思い切り暖かくして、ほんの少し出ている顔だけ冷える。これもまた楽しい。外は冷え冷え、身体はホカホカ、顔がヒンヤリ。コートや手袋、ブーツ、セーターに守られている私は無敵だ。
外で飲むホット赤ワインは格別。フーっと冷まして湯気と一緒に1口飲むと、ポカポカ身体も温まる。
秋は確かにオレンジ色の季節。夕焼け、紅葉にカボチャに落ち葉。だから、夕暮れ時が一番絵になる。
一日の悩みや苦しみも、この絶景の前では消えてなくなる。名画の前では愚痴は似合わない。
黄金のイチョウ並木の前に立つ。秋からの神々しい贈り物。並木道と、その間から見える青い空、そのコントラストが素晴らしい。一体誰が造られたのか。
11月は「神帰月」ともいうそう。 神々がそれぞれの地方に戻ってくるからだそうだ。
それなら納得、神がかっているわけか。
「秋は夕暮れ」昔の人と心が同調出来た気がした。
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