たかが紙切れ一枚で
海堂 岬
前編
「人とのコミュニケーションでは、顔が見える事が重要ではないでしょうか」
「やはり、顔の見えないままでは」
「いや、顔が見えなくてもコミュニケーションはとれるでしょう」
連日、繰り返されるマスコミの報道に私は溜息を吐いた。たかが、紙切れ一枚だ。それほど変わるものだろうか。
「そもそも日本は、古来より、顔が見えないままでのコミュニケーション手段があったではないですか。平安時代、あの紫式部が源氏物語を書いた時代、貴族たちは和歌でコミュニケーションをとっていました」
「それは当時の文化です。今、我々は現代を生きているのですよ。大昔の文化の話などしていません」
くだらない。私は静寂を選んだ。
「顔を見て会話していても、通じていないコミュニケーションの実例で、これを否定されてもね」
静かな部屋に私の声が落ちる。
私は議題になっている手元のそれを見た。たかが紙切れ一枚だ。
例え話は例え話で、議論の本質ではない。つまらない。紙一枚を相手に敵視して、くだらない。
そもそも、コミュニケーションは、人と人の間に紙切れが無くなっただけで、簡単になるようなものだろうか。
私は手元のそれを見た。たかが紙切れ一枚でしかない。無論、顕微鏡や様々な道具を駆使したら、より精密な構造をしていることはわかるだろうけれども。どう見ても、紙切れ一枚だ。これが、コミュニケーションの何をそれほどまでに変えるのだろうか。
そもそも、顔を見てというが、VR空間で各自が作成したアバターの顔だ。どうにでも細工できる。顔を見ることに、何の意味があるのだろうか。
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