第55話 暗根ヤミの根底は。
崩落した迷宮跡を見下ろし、準備していた結界を起動させる。
暗根ヤミと、銃原ガレンが迷宮内で仕留めきれなかった場合の作戦。
内部から出てくる未確認モンスターを閉じ込める堤防にして、内部から出てくる赤武ツルギを隠すための壁。
既に、結界の外では最高火力を準備した魔法使いが大勢おり、不死者殺しの能力を持つ探索者も用意した。後はトリガーさえ引けば、未確認のモンスターは討伐される。
迷宮から疲労困憊で帰還したガレンによって、この作戦であれば問題なく討伐出来るという、お墨付きは貰った。
「後はお前次第だぜ、ヤミ」
突き出した拳に応える者はいないが、その想いは、確かに届く。
◇◆◇◆◇
これなら、ツルギさんの秘密は、僕と師匠と
彼はまだ、人間に戻れる。
「ツルギさん。まだ、戻れます。戻して見せます」
身体はボロボロだけど、心は今までで1番燃えている。
「お前は、なんでここまで……何故なんだ?何がお前に、そこまで傷だらけになっても。どんな理由があれば、命をかけて、俺を救おうと出来るんだ!?」
言葉がうまくまとまらないのか、自分の心の内を曝け出した様なツルギさんの言葉に。僕は上手に答えられなかった。
「それは──」
そんな、ありきたりな。思いついたばかりの理由を言おうとしたが、やめた。
赤武ツルギを救いたい。その理由はきっと、もっと、自己中心的だ。──僕はそういう人間だ。
暗根ヤミはコミュ障で、友達がいなくて。友達が欲しくて、自分を変えたくて、命をかけて行動している。
暗根ヤミが、赤武ツルギを救いたいのは、その願いの根底は、最初から最後まで一貫している。一貫していたのだと、分かった。
自分のためだ。
「──それは、僕のためです」
自分の願いの核を理解し、定まり。これまでの、想定できる領域の力とは異なる【ナニカ】が、胸の内から吹き出てくるのを感じる。
遠く、地球から遥か彼方で見守る神々に衝撃が走る。
『これほどの力だったのか』
これまでの力が、法則を捻じ曲げる力であれば、これは。法則を作り出す力だ。
人の身でありながら、神の領域へと届く力。運命すらも変える、
その全てを、一撃に注ぎ込む。
「僕は、友達が欲しい。あなたと、友達になりたい。それだけのために今、ここにいます」
一緒に話して、戦って。助け合って。新しい友達が出来そうだったのに、こんな別れ方はしたくない。
「友達になってください」を言えないなんて後悔は、絶対にしたくない。
その光は、温かく、包み込む夜空の闇のようで。
「そのために、なんて──お前……、馬鹿だろ?」
「多分、とても」
泣き顔のツルギが、攻撃態勢に移る。
当人に戦闘の意思がなくとも、亜神となった肉体は、闘争を求める。
先ほどとは異なり、広がったエリア。躱される可能性は、高まっている。
だけど、焦る必要は無い。今の僕に、ステータスの補正は必要ない。だから存分に、頼る。
「彼の動きを、止めてください」
「「了解」」
動き出しの足を、黄金の光が消し飛ばす。
初撃でツルギの体を吹き飛ばした、銃原ガレンの6つ目の
そして、行動の出を阻害され、動きの止まったツルギの身体に何重もの鎖が巻き付く。
ガレンの狙撃、田中の指揮による行動阻害魔法により、ツルギの動きは完全に停止した。
未だ脱出を目論む肉体は、望んだ出力を出せていないようだ。それは、赤武ツルギの抵抗。想いの力が起こした、奇跡であった。
「帰りましょう、ツルギさん。話したいこと、沢山あるんです」
僕はそう言って、引き金を引いた。
◇◆◇◆◇
「『銃原ガレンと協会が合同で、特殊モンスターを討伐』ねぇ……。ここまで来ると、お偉いさん方に、尊敬の念が湧いてくるわ」
どこまで強欲なのか。今回に関しては、本当に何もしてないだろうに。
それに迷惑なことに、協会のヒーローとして『田中』はまた祭り上げられているようだ。
「僕としては、ありがたいですけどね。ツルギさんの事も、僕の事も表に出なかった訳ですから」
テレビに映る映像にため息を吐いていると、この部屋の住人がそう言ってくる。
包帯で顔が隠れた状態であっても、笑顔であると分かる雰囲気の青年は、ベッドの上で柔らかく笑っていた。
「そんなこと言って。『ホントは目立って友達作るチャンスだった』って、思っているんじゃないのか?」
「え、え〜っと……」
実は未練があるってことは見抜いている。
少しからかってやると、どう答えるべきか分からないのか。病人服を着たヤミは答えに詰まって、苦笑した。
◇◆◇◆◇
──数時間前。
ここは協会保有の病院、その病室。
治療が一通り終わり、個室に運び込まれたヤミは、酷い火傷ではあったが、命に別状は無かった。
「あの後は、どうなりましたか!?」
ヤミが目覚めるのを待ってくれていたのか、病室にいてくれたガレンと田中に状況を聞いた。
「結果は重傷者2名。軽傷者で私が1名。そして、特殊寄生型モンスターは討伐されたよ」
「そんな!?──いや、重傷者は……2名」
ヤミの問いの答えとしては、不十分に感じられたガレンの答え。
モンスター討伐の字面に驚き飛びついたが、情報を精査した事で、抗議の言葉を撤回した。
「そう、私を除いて
「俺の方に上がってきた報告では、『問題ナシ』だそうだ。良かったな、大事無くて」
目覚めたばかりで起こそうとした身体はふらつくが、支えながら伝えられたガレンと田中の報告から、事態の結果を理解する。
すなわち、赤武ツルギが亜神であったという事実は、この3人の中だけで完結したということだ。
病院では、どこに耳があるか分からない。そのため情報を遠回しに伝えている事を理解したヤミは、ゆっくりと身体をベッドに沈めた。
「さて、落ち着いてもらった所で、ささっと協会としての仕事をさせてくれ。手早く済ませようぜ?」
「ですね」
茶目っ気のあるウインクをしてくる田中に、ついつい笑いながら返した。
協会の目的は、今回も変わらず実績の買取。事前に田中と練っていたカバーストーリー。そこにガレンも加わった事で、ヤミとツルギの件は外部には一切伝わっていなかった。
加害者にも、救世主にもならず。片や被害者、片や微力ながらの協力者。そこが落とし所であると結論づけていたため、ヤミは即断で実績を売ったのだった。
◇◆◇◆◇
ニュースの全容を聞いた後。田中さんがからかってくるのを、苦笑で返すしか無い僕をひとしきり楽しんだのか。田中さんは話題を変えた。
「……それにしても、ガレン氏伝手に聞いた話じゃ、だいぶ活躍していたらしいじゃないか。ホントに名前すら載せなくて良いのか?」
「そうだぞ、少しくらい欲張ったってバチは当たらん。あと田中君、『氏』は不要だ。もう少し気軽に話しかけてくれ」
2人の気遣いをありがたく思いながら、首を横に振る。
「良いんです。今の僕に、同じ働きは出来ないので。実力証明が出来ない以上、下手に力を誇示しない方が良いと思うので」
右手は焼け爛れているが、最新性の治療によって後遺症は残らない。火傷痕は残るが、身体に問題はない。
問題があるのは──正確には、失われた力は別である。
ヤミは机に置かれた、もう動かないカメラを撫でながら、会うことの出来ない友人たちへ思いを馳せた。
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