第15話 暗根ヤミ、したたかです。
2人が、何か秘密にしている事は分かっている。
それはきっと、上位の探索者しか知らない事(推測)であり、僕に言えない事なのだろう。
だから僕はそこには突っ込まず、自身の利益の為に信じたフリをした。強くなる為に。
今回の迷宮で分かった。僕は強いスキルを持ってはいるけど、まだまだ簡単に死にかける。それを改善できるかもしれない絶好の機会を、逃す手はない。
暗根ヤミは、したたかだった。2人の超常存在はそれに気づいてはいたが、好ましいものとしてスルーした。
『取り敢えず、モンスターを倒してみなさい。それを見て、簡単にだけど改善点を指摘してあげるから』
「──、わかりました!」
ヤミは答えるや否や、先程からバレない距離で保っていたモンスター【ブレードラビット】の頭を撃ち抜く。
探索者としての大成という願望に後押しされたヤミの返事は、見違えるほどハキハキとしており、その行動速度も素早い。
5匹の群れを5発で倒してみせると、素早く魔石を回収。
すぐさま響いてくるウサギたちの叫び声。
「銃声を聞いて集まってくるので、思いっきり引きます」
マガジンを通常弾からポーチで生成した強化弾へ切り替え、回復した魔力を素早くポーチに注ぎ込む。
現在は弾に余裕はあるが、前のような規模感になれば即座に弾切れを起こす。
出来る限り出入り口へと後退していると、草をかき分ける音と共に、灰色の塊が顔面めがけて跳ね飛んでくる。
油断している状況で無ければ2発はかかったモンスターを、強化弾は一撃で苦もなく撃破する。
『前の武器より遥かに殲滅しやすいな』
初回探索を見ていたワンは、新調されたアサルトライフルに感動していたが、前回と違うのは武器だけではない。
「これでも、足りないくらいですッ!」
無駄撃ちをなくすべく目を大きく見開き、周辺視野を用いた優先順位づけに基づいて、襲いくる兎の群れを撃ち落としていく。
先程まで感心していたワンの
『……余りにも、多過ぎないか?』
5匹の群れが、銃声聞きつけてたちまち20匹だ。
高位の迷宮ならば当然だが、ヤミが向かう程度の場所でこれは異常なのでは?
ワンはそんな疑問を持ったが、人類の挑む迷宮の実際の場面に詳しいわけではないので、もしかしたらこれが普通なのかと口をつぐんだ。
トゥもヤミも同様に、普通を知らぬために疑問を確証には変えられない。
全員が口を閉ざす中、高位迷宮の状況と思われる程の修羅場を、レベル3のヤミが何とか対応してみせる。
「キャァァァッ!」
「ふっ!」
飛びかかりを蹴り上げ、噛みつきを【
強化弾が尽きた瞬間に迎撃から全力逃走に切り替え、通常弾を適度にばら撒きながら、ポーチ【キャットフィッシュ】で生成された弾丸を詰める。
そうして最適を積み重ね、何とか20を超える灰色の群れを、以前よりも遥かに少ない弾数で捌いてみせた。
「はぁ……はぁ……」
目が慣れた、経験もした。そして対策を練った。そのお陰でヤミは、先程と異なり逃げる事なく群れを倒し切れた。
だと言うのに表情は暗く、魔石を回収する手は震えていた。
「──これが、現状です。『美味い』と言われる迷宮ですら、僕はギリギリで勝つのがやっとなんです」
そう、ここは奇襲されづらく、稼ぎやすい迷宮と呼ばれる場所。
ソロかつ銃声で引き寄せてしまう、『場所の合わなさ』というマイナスは背負っているが、本来ならそれでもこんな苦しいはずは無い。
「僕は……何がダメだったのでしょうか?前回の反省点は殆ど直せたつもりなんです」
それだけ会心の動きをしてみせても、まだ継戦は不可能な程に疲れてしまう。もはやヤミ1人では、解決策が見つからなかった。
『そうね……動きに関しては、それほど文句はないわ。師匠が良かったのね』
基礎的な事は出来ていた。だからこそタチが悪い。それは、こちらにリスクあるアドバイスをしなくてはならないという事だからだ。
だが、トゥはもう迷う事はしなかった。
『あとは、魔力の使い方かしら』
「ま、魔力の使い方……ですか?」
『……』
トゥの言葉に、ヤミは首を捻り、ワンは口を閉ざす。
『ポーチに魔力を注ぐのは出来てるのに、体の中にある魔力を全然必要な箇所に集中させる技術が出来ていないわ。上位にいけば当たり前に出来る技術よ』
嘘は言っていない。
「そ、そうなんですね……まだまだ知らない事があって恥ずかしいです」
そして、ヤミは上の存在を知らないがゆえに、信じる選択肢しか無かった。
『恥じる事はないわ。私ですら思いつかない事、知らない事はあるもの。重要なのは、自身の恥を認める事』
それすら出来なくなったら、終わりよ。
そう言葉を続けるトゥに、ヤミは少し苦味を持った笑みを浮かべる。
恥を避け、人との関わりを避けた自覚がある人間には、痛い言葉だった。
『とにかく、魔力をポーチに送る感覚があるなら、魔力を身体の中で動かす感覚を掴みなさい。コントロールは練習あるのみ。出来るようになれば、やれる事が増えるから』
「──ハイッ!」
何が出来るかまで教えるのは、流石に
これで許しなさい、とワンに思念を送れば、返ってきたのは感謝の感情。
ここまでするとは、と驚愕しているワンを見て、
「危ない橋を渡った甲斐はあったわね」
トゥはそう言って笑った。
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