第8話 暗根ヤミ、非常識です。
『銃と魔石は失ったが、まぁ命には変えられないだろう』
「は、はい。助かりました。……熱ッ!?」
あまりの衝撃で固まっていたヤミは、右手の中で赤熱するリボルバーに手を焼かれ、取り落とす。
ジュウという音がして、湖から更に水蒸気が上がる。
途轍もない威力だった。銃を破壊してしまい、魔石も全て失ったとはいえ、ボスモンスターと思われるドロナマズを一撃で消し炭にするなんて。
『あれは運が良かったな。魔石の属性が全て火だとは思ってなかったよ』
「属性……ですか?」
『あぁ、魔石にも魔術と同じく属性があるんだ。属性にあった役割を与えれば、本来の力よりも更に効果を発揮する。分かるようになると便利だよ』
「そ、そうなんですか……」
もしかしたら途轍もない技術なのかと思ったが、ワンさんがなんてことないように説明しているし……さては自分が知らないだけで結構常識的な事なのだろうか?
そんなことを考えたヤミは、この技術を問いただすことはやめることにした。
そこでヤミは一つ推理をした。
海外の人で、探索者のことに詳しい。それに前に、『君の動きは初々しくて面白い』的なことを言っていた。
……もしかしてワンさんって、外国の優秀な探索者の方なのでは!
当たらずとも遠からずだと思っているヤミは、
炭化した死体は時間をおいて消失し、そこには土の山が出来上がっていた。
その中に手を突っ込み漁ると、魔石が手に入った。
「この大きさなら、リボルバー代は取り返せた……!」
それはスライムやコボルドの魔石とは大きさが異なり、ピンポン玉くらいの大きさであった。
「これでさっきのヤツをやったら、どうなるんだろう……?」
もしかしたら、更に強いモンスターもワンパン出来ちゃったりして!
そんな妄想を膨らませるヤミに、ワンは現実を突きつける。
『恐らくは銃が耐えきれず、君の右腕ごと爆発四散だ。お勧めはしない』
「で、ですよね〜……」
先程の威力でも喰らえば消滅するので、右腕どころか全身消し炭だとは思ったが……まぁ優しめに言ってくれたのだろう。
ワンとの会話を続けながらも、ヤミは土の中を漁るのをやめなかった。
「もしかしたら、【マジックアイテム】もあったりして……あ、」
『あったようだね』
【マジックアイテム】、それはボスモンスターを倒した際に稀に発生する物であり、討伐者の求める物が一つ手に入ると言われている。
魔法の効果がかかったそれは、場合によっては億を超えた額で取引されるとか。
「初級冒険者のマジックアイテムが、5億で国相手に売れたとか何とか……僕のはどんなアイテムだろう」
出来れば新しい銃。それか友達を呼び出す魔道具とかだと嬉しいんだけど……。
そんな願いを込めながら、ヤミは手に掴んだものを引き抜く。
星々の光を受けて輝くソレは黒く、手のひらくらいのサイズ感がある。
「これは……ポーチ?」
吸い込まれるような艶やかな黒は夜空を思わせ、所々に入る金の刺繍は星々の煌めきを表している。
ボスモンスターの面影は無いが、迷宮を題材にしている美しい魔道具だった。
「凄い……どんな効果があるんだろう?」
武器ではなかったが、それでも嬉しいものは嬉しい。鑑定のスキルは持っていないため詳細は分からないが、一先ず使ってみればどんなものかは分かるはずだ。
「中身が大量に入るボックス系だったら大金持ちになれる!」
腰に取り付ければ特注品のような収まりを見せ、動きを阻害することもない。
基本的に、袋系統のアイテムには2種類ある。空間が拡張され、多くのものが入るタイプか、何かを生成して中に貯蔵されているタイプかだ。
前者の方が汎用性が高く高値で取引されているのに対して、後者はハズレ枠とも言われているが果たして。
ポーチの留め具を外した瞬間に、身体から魔力が吸い取られる感覚。
ドロナマズを倒したことで更に増した魔力の量に比べれば大したことないが、その事実はヤミに悲しいお知らせを告げていた。
「アイテム生成タイプか……流石にそううまくはいかないよね」
『それほど落ち込むこともないだろう。キミにとっては、かなり有用であることは間違いない』
「そ、そうですよね。よし、切り替えていこう!」
あからさまにがっかりしていた自分を、フォローしてくれたのが恥ずかしく、ヤミは赤面する。
そしてポーチの蓋を開き、中で生成されたであろう物を取り出す。
「これは確かに、僕にとっては当たりかも」
その手に握られていたのは、現在用いているリボルバーの弾丸とそっくりな物だった。
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