第373話 臨界2(パルマサイド)

「ったく人の家でうっせえな。コソ泥ならコソ泥らしく静かに入れってんだよ」


 ドタドタと駆け足で走り回る音に舌打ちをしながら漫画をデスクの上に置く。これで全巻制覇だ。前々から読みたいと思いながらも手を出すことが出来なかっただけに達成感もひとしおだ。


「後腐れなしだ~‼」


 大声を上げて伸びをすると積み上げていた漫画が床に落ちた。一冊の角が足の上に落ちるも靴がしっかりと痛みを防いでくれる。


「幸先良いぜ」


 バラバラと落ちた漫画をテーブルの上に置くと未開封のペットボトルの蓋を開けた。気が抜ける炭酸の音が部屋を走り、すぐに消える。居座る部屋の片隅ではいつも通りにコーヒーメーカーからトクトクと黒い雫が落ちていく。皆が面持ちは別としても普段通りの仕事前の時間を過ごしている姿に誰も彼もが少しばかりの満足感を覚えた。


「迎撃に行かなくてよろしいんですか?」


 落ち着いた態度を取りつつも内に不安を滲ませる態度で淹れたてのコーヒーを篝山鋭心かがりやまえいしんは口に含む。パルマは自前の炭酸飲料をぐびぐびと飲みこんでいく。緊張感の有無がよく分かると2人を眺める者たちは思いつつも口には出さない。


「別に行く必要はないぜ。勝手にこっちに来るだろう。下手に動けば動くほどこっちが不利になるんだ。それより祈っておいた方がいいんじゃねえか?」


 篝山の主張をパルマは一蹴する。


「祈ってどうにかなるほど甘い相手ではないでしょう」


 苦笑しながら篝山はコーヒーを片手にタブレット端末に触れる。


「屋上の扉は強行突破されましたね。やはり屋上からの攻撃です」


 端末を覗き込むと屋上へと続く扉がものの見事に内側で控えていた兵士ごと盛大に吹き飛んでいた。軍で扱っている爆薬でも使ったのではないかと思えるほどの威力だった。


「派手にやるな~」


「アレを正面から受けたくないですね」


 呆けた感想を口走ったパルマの発言に篝山は苦言を呈す。その間にも吸血鬼は破壊された扉の穴からぞろぞろと侵入してくる。穴から差し込む月光を背景に影が入り込んでくる様はまるで賊そのものだ。


「ここについてはまるっきりコソ泥ですね」


「じゃ、きっちり悪党はぶっ飛ばさないとな」


 プロテクターに腕を通すと右手にパルマは鞘に収まっている大ぶりの片刃を手に取る。篝山を始めに全員の準備が完了している。


ー蹂躙。


 率いる男の頭にあるのはそれだけ。


 自然とパルマを除く全員の気が引き締まる。


「さて、仕事の時間だ」

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