第353話 乱舞25(エウリッピサイド)
炎が揺らめき、林立しているビル群は次々に飲み込まれる。昼と見まがうほどの明るさは破壊の大きさ、規模を懇切丁寧に教えてくれる。都市で山火事が起きているようだと思いながらエウリッピは瓦礫が敷き詰められた都市だった場所を一段と飾り立てた深紅のドレスを纏ってトントンと軽い足取りで進んでいく。ひび割れたアスファルトが生み出す音は主演女優を称えているようで気分も自然と高鳴る。見るものによっては頭上を漂う『死蟷螂・
「取り込め」
エウリッピが命じると『死蟷螂・臨界突破』の中央にある輪が炎諸共に瓦礫を、倒れた人間を次々に取り込んでいく。焦げ付いた肉と脂肪の臭い、熱に覆われていた地獄は瞬く間に虚無の色に塗り替えられていく。
「思っていた以上に順調ですね」
つい今しがたまで灼熱の光に晒されていたことを証明するようにガネーシャは取り出したハンカチで額についた汗を拭きとっている。何気ない仕草の1つ1つまでが洗練されているのを見ていると未だに煮え切らない感情を抱いている自分にエウリッピは行きつく。
「ええ。もう少しで完成しますよ」
そう。あと少し、あと少しだ。そうすれば、あの屈辱的な敗北も自らの汚点も何もかもを存在しなかったことに出来る。強引すぎる力業に縋るなどという似合わない手段を選んだ自分への慰めになるとエウリッピは目に垂れようとしていた汗を指で弾く。
「どうしましたか?」
本当に何気ない、悪意も何も感じ取れない口調だ。
「どうもしませんよ。順調すぎて少し拍子抜けしているだけです」
ごまかし、エウリッピは膝を折って転がっていたマグカップを手に取ったが、破壊の暴風に晒されて限界に達していたらしく落ちて砕ける。取っ手だけを残したマグカップが何処か凶兆を告げているように感じた。
「そうですね。何処かで少なからず抵抗は受けるかと思っていました」
明後日の方に顔を向けながらガネーシャも同様の感想を口にする。腑に落ちない。それが両者の抱く見解らしかった。
「しかし、1人ぐらいはこちらの出方を理解している者がいるようです」
今しがた口にした言葉を撤回するようにガネーシャは落ちていた瓦礫を1つ拾い上げると今にも崩れそうな壁に投げつける。命中すれば貫通し、潜んでいる何者諸共に壊すことは確実だ。
当たる間際、壁の反対側から何者かが飛び出す。足をもつれさせるに十分な瓦礫が未だに健在であるにもかかわらず足取りは軽やかだ。
向かっていった攻撃手はガネーシャとぶつかる。金属音と衝撃は炎を揺らした。残火が横顔を照らす。
「邪魔をするなよ。ガネーシャ」
「させていただきます。カルナ殿。通すわけにはいきませんので」
「そういうことですよ」
激突している2人をしり目にエウリッピは
「1人ですか?」
「どっちだと思う?」
「明かしてみましょうか」
手を翳すと『死蟷螂・
音が撫でた場所が次々に抉れていく。沸き立つ煙は当初より抑えてあるとはいえ十分すぎるほどに脅威だ。それでも、肝心の
「それがお前の能力か?」
ジロリと上目遣いに睨みつける葵は微動だにしない。煌々と盛る焔が抜き身の
「一応そうですよ」
素っ気なくエウリッピは答えながら照準を葵に合わせる。
「それで?どうやって私の位置を割り出したんですか?」
割り出すことは不可能ではない。向こうにもこちらの状況、手の内を離間の計を遡ることで
「肝心のお前に教えると思うか?」
明確な拒絶を含む言葉が返答として出される。
「別に教えなくてもいいですよ。答え合わせは、これからやるだけですから」
エウリッピが宣言するとガネーシャが前に出て、『死蟷螂・
「それならお前の手でやってみせろよ」
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