第302話 蠱毒14(エウリッピサイド)

「絶対にっ‼許さない‼」


 今の今まで、この瞬間に至るまで胸の内に秘めていた本音をエウリッピは躊躇うことなく盛大にぶちまけた。肩で息を切らしながら絶叫する姿は普段の姿しか見ていない者からしてみれば驚愕を通り越した現象だろう。それはあくまでもエウリッピという存在を良く知っているという前提になる話ではあるが。


「気分は落ち着かれましたか?」


 澄ました顔でガネーシャはエウリッピに問う。自分だけが覆しようのない現実を目の当たりにして八つ当たりをしている姿を突き付けられて沸騰していた脳が、細胞が急速に冷却されていく。深呼吸をするとエウリッピは顔を覆っていた髪を後ろに流す。


「とっても。ああ、愉しみで昇天しそうですよ」


「鉄は熱いうちに。参りましょう」


 ガネーシャはエウリッピに一礼すると踵を返す。カツカツと音を鳴らす靴の音からは一切の躊躇いを感じさせることはない。


 楽園は、まだ彼方。それでも、手の届く場所に存在している。


 赤々と実る果実は早く手に取れと誘う。甘美な香りは芯に根を張る。


 世界は、私。私たちだけの世界。


 あの日だけが楽園。だから、だからこそ…。

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