第286話 破戒30(銅金サイド)
腕が重くなっている。トリガーを何回も引き、弾倉を何回も変えての行程をいくらこなしたかも分からないほどに作業を繰り返して何時間経過したかすら把握できていない。もしかしたら大して時間なんて経過していないのかもしれない。
至る所に倒れ伏す屍。敵も味方も問わずに女神に手を引かれた者たちは手の届かない場所へと至った。
「こうも多いと、些か嫌になるね」
同じ時間、同程度の敵を屠っているはずなのに金崎の表情からは疲労の色は伺えない。埃に汚れているという点だけは共通であるがあくまでも汚れとして銅金には刻まれているのに対して
「そー思ってるならさ、もう少し疲れてる顔ぐらいしてよ。1人でボロボロになってるのめちゃくちゃカッコ悪いじゃん!」
「何を言い出すかと思えば肝が据わっているね。感心するよ」
「そっちのポーカーフェイスにもね」
余裕が無かった顔に自然と笑みが零れる。
「さて、銅金君はあと何人を倒せるかな?」
「山ほどぶっ潰してやりますよ~」
バレルをわざとらしく撫で、『ヴェスタ』の照準を吸血鬼に据える。大見得を切ったからには『メギド』を持ち出して一掃が理想だが折角未だ生き残っている仲間たちを巻き込むのは倫理が止める。そのための力ではない。人に刃を向ける悪逆を焼き滅ぼすためにあるのだ。
「具体的な数字で示して欲しいところだが、君らしいね。勇気づけられるよ」
ついさっきまで張り詰めていたように聞こえていた声音は水気を得て力を漲らせた風に聞こえる。痛みを訴えに訴えていた美々の腕もまたエネルギーに満ちる。
「奇跡だって数字じゃ表せないよ」
「奇跡などありはしないよ」
素っ気ない態度で返す金崎に美々はブー垂れた顔を向ける。
「あたしといられることがっ‼奇跡みたいなもんでしょ‼」
危うく吸血鬼に向けるはずのバレルを金崎に向けそうになってコホンと咳ばらいをして軌道修正を行う。
「折角勝利の女神が口づけしてくれたなら期待に答えなければね」
彼我の戦力差は図るまでもなく圧倒的だ。真理たちが持ち帰る情報に期待を持つのは酷にしかならないだろう。
しかし、合わせる背は、預ける存在の力強さは、彼我の戦力差を埋めて余りあるほどの安心感がある。
「満足させてくれなきゃバキューンだからね‼」
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