第266話 破戒10(葵サイド)
転身は、あっという間に終了した。今日は二度目。肉体はあっという間に変質して人の姿から獣を思わせる刺々しい姿に変わる。
『Gaaaaaaaaaaaaaaaa‼』
四肢を使って大きく飛び跳ねると葵は宙で体勢を変え、足でそのまま直下をぶち抜こうとする。フォスコの手元にはあの輪が未だ存在している。外側だけを攻撃に用いたということだろう。速度を除けば諸共の能力は想像していた以上に高いらしい。
「上では自由に動けまい‼」
声高らかに、喜色に満ちた顔でフォスコは再び投擲する。
『あほかよ』
吐き捨てると葵は身を翻し、輪に手を着く。小刻みに震える刃は葵の装甲を破壊しようと表面を削っている。だが、一撃で突破できるほどの威力が無いのは一触れで理解できた。足場に利用し、葵はアスファルトの上に降りるやすぐにフォスコの懐に入り込む。ここを逃す理由はない。拳を握り締めて一息にフォスコへと解き放つ。
バシッと紙が強烈な烈風に破られたような強烈な音が葵の耳朶を打った。ぶつかり合う拳と拳。ギリギリと動くことなく拮抗状態に入る。
「アホか…。面白い文言だなっ‼」
受け止めた手を一捻りして砕き捨てようとしていることが理解できた葵は咄嗟に足を振り上げてフォスコの拘束を解く。ドンッという大きな音が続いて空気を震わす。だが、動き自体はフォスコの方が早い。正面に現出した輪は主に手を出させはしないと赤銅色の障壁を展開する。
押し破ろうと力を込めれば込めるほどに反発が強くなっていく。直後にフォスコが拳を突き出そうとしている様子が目に入った。バチッと弾ける音がすると同時に作り出した力に負けた風を装って葵は吹き飛ばされる。だが、振りとはいえども力の反発によるダメージは確かに残滓がある。
『痛ッ‼』
右手が痺れる。強烈な電流を一気に流し込まれた感覚に葵は顔を顰める。手をグー、パーと交互に繰り返すも上手く動かない。
「右手はもう使えまい」
『どうだろうな』
強気の反駁をしようにも声音に厚みがあまりない。それがしっかり心情を反映しているとフォスコは受け取ったのか益々傲岸な態度を取る。
「勝負はあったな」
『決めつけるのは些か早計だと思うぜ』
「強がれるか?今の貴様が」
輪をわざとらしく撫でる。次の一撃でお前を殺せると挑発していることは葵にも分かっている。だから、飛び出さないように己を縛る。今の自分は独りではないと己に言い聞かせて。
『辛いんだよ。背負うってのは』
グッと腰を下ろして右腕を除く手足に力を込める。一向に退こうとしない、諦めの悪い葵の態度をフォスコは鼻で笑う。
「その双肩には重かろう。その細腕では支えきれまい。その両手で抱えきれぬだろう。失う前に投げてしまった方が賢明であると思うがな」
『投げ出せるほど、あいつらの抱えてるものは軽くない』
言葉は、確かな厚さと重さがあった。つい先ほどまで傲岸な態度を一切隠していなかったフォスコの態度に変化が生じる。その言葉が真か否か試してやろうと言わんばかりに。
「よかろう。ならば、それを背負ったまま潰れろ」
『その好意に感謝するぜ』
小生意気な言葉を返しつつ葵は一気に首を取るべく前へ出て、上へ跳ねた。
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