第93話 女王(プロローグ1)
死に方は知っている。戦士として多くの時間を過ごしていれば自ずと身につくものだ。
しかし、最後が来るときは、突然だ。
キィと小さな音がして、淡い光が差し込む。
直後にコツン、コツンという革靴が床を叩く音が聞こえた。死神が迫る。
顔を上げると警察官のような装いをした男が部屋に足を踏み込んで来る。
「出ろ」と冷たい、感情が感じられない言葉が投げかけられる。
冷たいコンクリートの床の感触とおさらばできるかと思ったが、廊下と階段のリノリウムの冷たさが次に待ち受ける。
首輪から伸びる鎖を持った男が歩むたびに素足を冷水に足を突っ込んでいるような冷たさが駆け抜ける。
手足につけられた鎖の重さを感じるたびに、ジャラジャラと鉄の擦れる音が聞こえるたびに死神の鎌が振り下ろされる瞬間が間近に迫っているのだと分かる。
スポットライトに照らされているように待ち受ける男たちは、葵ことカルナが部屋に入っても表情を変えることはない。あくまでも表向きだが。
普段と変わらないように見えながらも、ほんの少しだけの悦が混じっている。
円卓の中央まで引っ張られ、カルナは跪かされる。
可能な限り顔を上げようとしたところで、頭を押し付けられる。鼻から突っ込んだせいでくしゃみが出そうになるのを堪えた。
「弁明の言葉はあるか?」
「…ない」と淡白に、短く答える。
何を言ったところで無駄なことは分かっている。今更だ。
そもそも、もう抗う理由がない。
全て、失ったのだ。生きる理由も、戦う理由も。
「そうか。では、どのような決を受けたところで異存はあるまいな?」
首を振って答える。声を出すのも面倒だ。
答えを受け、中央に陣取る男は厳然と告げる。
「では、弦巻葵。いや、カルナ・アラトーマ。汝を、死刑に処す」
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