第20話 闇夜18(九竜サイド)

 案内によると第二支部はビル本体が20階、地下は5階まで階層が設置されているようだ。15階から上は進入禁止エリアになっていて局長クラスにならなければ立ち入ることは許されないらしい。2階から5階まではトレーニング場や食堂などが設置されているとある。地下は技術部の支配下にあるようで研究室と実験室、激しい戦闘にも耐えうる闘技場が設置されていると記述がある。


九竜くりゅう君は好きなことありますか?」


 11階を回り終えてエレベーターに乗ったところで小紫こむらさきは飽きたのか口を開いた。


 問いかけに何と答えるべきか迷う。読書は好きだが馬淵にも話したように武装でしかないためここには含まれないだろう。これを除いてしまうと好きなことは無いに等しい。


「私は映画が好きなんですよ。九竜くりゅう君は好きですか?」


 映画には残念ながら詳しくない。精々有名どころをある程度抑えているだけだ。それも深く入り込むと話についていけなくなる。


「まあ、有名どころですが…」


 その中でもオレは自分が好きな映画を1つ上げた。10年以上続いている刑事ドラマを映画化したものだ。映画は全部で3本作られておりファンからの評価は高めで海外からの受けもいい。


 下手に話す機会を逃して気まずい空気のまま過ごすよりはマシだと墓穴に足を突っ込まないラインまで話を続けることを選んだ。


 名前を上げると映画好きというだけあって小紫こむらさきは見事に食いついた。映画好きと自称しているだけあって大人しそうな見た目と裏腹にかなり食いついてきた。


「私はあのシーンにちょっと不満があるんですよね~」


 その言葉を皮切りに小紫こむらさきは熱弁を振るい始めた。口調から映画が大好きであるということが伝わってくる。


 聞いていて退屈はしなかった。更にオレも一応は知っている立場であることを慮って彼女は意見を求めてきた。


 熱弁を振るっていたから基本的には話が専門かと思っていたが、聞き上手でもあったようで適度に質問をしながら話を進める。しかも、マニアックな箇所に言及はせずに印象的なシーンにはどういう意味が込められているか、映画は何を伝えたいかなど自分の考えを言わせられることが多かった。


 話していると数日前まで滞在していた上梨邸での日々を思い出して鳥肌が立った。


九竜くりゅう君は頭が本当にいいんですね」


 話がほぼ終わりに差し掛かると小紫こむらさきがそんな言葉を口にした。


「言われたのは初めてです」


 オレは率直に言葉を口にしただけだったが、小紫こむらさきの反応は冷ややかだった。


「謙遜するのはいいですけど、ちょっと嫌味に聞こえますよ?」


 口調こそ穏やかだったが、棘を含んでいる。


「無駄に敵を作るのはとても利口ではないですよ」


 聞いていたオレも反論する。


「その意見は間違ってないですね」


「でも」と彼女は少し間をおいて付け足す。


「ここでやっていくつもりなら、これから先も勝つ人生を望んでいるのなら爪は研いでおくことをおススメしますよ」


 そう言った小紫こむらさきの目は打って変わって鋭かった。

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