第17話 闇夜15(葵サイド)

 山に到着すると上梨が待ち構えていた。時間は丁度午後に差し掛かったところだ。


 今日は日差しが強く今年に入って初めてエアコンをつけた。田舎で平日ということも相まって他の車はおらず予定通りに2時間で到着できた。


「待っていたぞ」


 待ち受けていた上梨うえなしは開口一番に不機嫌そうな声で出迎えた。1週間前に九竜くりゅうを預けたときと姿は変わっていない。


「彼は何処?」


 車から降りると傍にいるであろう九竜くりゅうの姿が見えないことに疑問に思って問いかける。


「寝ている。少しやりすぎてしまってな」


 溜息をついて上梨は入口に向かって進んでいく。


「その調子だと流石に勝てなかったみたいだね」


「引退したと言ったところで私はずっと戦場にいたんだ。素人に負ける道理はない」


「その割に気絶するほどに殴り飛ばすのは説得力ないね」


 にやけ面で葵は返す。


「現実を教えるのも仕事だ」


「教える仕事の方が性に合ってたんじゃない?」


「そうかもしれんな。だが、お前の言葉を借りるなら過去はなかったことにならない。あの日々がなければ今の私はない」


「アタシを恨んでる?」


 葵の質問に上梨は少し間を置く。顔を見ていて未だに気持ちの整理がついていないことが分かった。今もまだ、ずっと戦っているのだろう。


「お前は自分の家族を殺した人間の家族を恨むのか?」


「恨まないよ」


「お前の質問に対する答えはそれと同じだ。私はお前を恨んでいない。恩人で友だと思っている」


 さっきまで浮かべていた苦悶を滲ませていた顔は既にない。


「もう戻るつもりはない?」


「ああ。戦士としての私は死んだ」


「だが」と前置きして話を続ける。


「お前が牙を剥くなら、私はお前を殺す」


 本気で言っていることは問うまでもないだろう。幾度も切り結んでいたことから葵には手に取るように分かっている。


「そうならないように努めるよ」


 上梨の脅しに葵は他人事のように言葉を返した。

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