みや狂想曲~逮捕はいやなんですけど~

からいれたす。

みや狂想曲~逮捕はいやなんですけど~

 僕の新生活が、おまわりさんのお世話になる可能性が極限にまで高まった昼。


「あ、お兄さんこんにちは」

「あ、ども」


 先日契約したアパートに引っ越してきたら幼女が腹を出してゴロゴロしていた。

 はい、アウトー。


「えーっと、君はどこからきて、どうしてこの部屋にいるのかな?」

「前から、ここに住んでましたよ」

 ふぁっと? 聞き捨てならぬ。


「マジか」

「マジです」

 僕としっかり五秒は見つめ合った女の子が、真剣な表情でコクリと頭をたれる。


「そっか……ちょっと大家さんに電話してくる」

「あー、やめたほうが良いかもですよ」

 電話しようとしたら、なんだか引き止められた。


「な、なんでかな?」

「大家さんに追い出されちゃうから?」

「意味わからないのですけど」

「〇リコンは死罪っていってましたです」

 おいぃぃぃ。風評被害がすぎる。


「ち、ちっげーし。紳士じゃねーし」

「怪しいです」

「おいやめろ、その疑惑だけで死ねる。社会的に死ねる」


 えっ、ツーアウト?

 こ、こいつ。自分の容姿と立場を最大限に利用してないか。


「おとうさんとおかあさんのところに帰りたいだろ?」

「えっ、いませんし、かえれません。私のおうちはここですし」

 いやいや、こんな子供がひとりで暮らさねぇし。


「そもそも、出ていくのはそっちだよね」

「それもやめたほうがいいかもです」

 いやー自宅に帰っていただきたのだけれど。


「なんでだよ」

「お兄さん不幸になっちゃうので」

「いやいやいや、いま君がココにいることで、僕の居住地が独房になりかけてるんだよ?」

「難しいことはわからないです」

 くっ、ここで韜晦とうかいするとか、手練てだれかよ。


 とりあえず、情報が少なすぎる。ここはコミュニケーションをとって状況の把握と改善だ。

「ところで君のお名前はなにかな?」

「あ、私に興味でちゃいましたか?」

「言いかた注意して、その辺もう少し気を使って! あと頬を染めない」

 誰かに聞かれたらどうするんだよ。


「ぼへみやん」

「はい? もういちどいいかな?」

「ぼへみやん、です。みやって呼んでください」

「えーっと、ツッコミたい気持ちとスルーしたい気持ちで凄まじい葛藤が生まれたわけだが……なんだって?」

 ツッコミたい気持ちがちょっと勝った。


「耳がわるいのかな?」

「ちっげーし」

「幼児略取誘拐かな?」

「ち、ちっげーし」

よこしまな感情の発露?」

「ち、ち、ちっげーし」

「今までに使ったは何個?」

「ち、ち、ち、わかるかっ!」

「ぷくすー」

 ちょっとー。子供の発言は証拠にならないとかいうのは妄想だからな。おまわりさーん。あ、だめだ。今そこに助けを求めちゃヤバイ。どうすんだよ、これ。


「韓国風のキムチとかはいった鍋かな?」

「ち、チゲだし」

 寒くなってきたし、来月あたりとか美味しく食べられそうだなぁ。


「あ、そこは乗ってくれるんですね、お兄さん。すき」

「や、やっべーし」

 いやいやいやいや、なに楽しく会話しちゃってるんだよ僕。


「あ、内縁の妻ってことでおねがいします」

「…………」

 意識が飛びかけた、どのくらい気を失ってたんだ。ぴーぽーぴーぽー。遠くから聞こえるサイレンの音で覚醒したけど、震えがとまらねぇ。


「なんか、僕をからかってないか?」

「ちっげーし、です。もえもえキュンだお」

「はぁ~~~~?」

「聞こえませんでしたか? 耳掃除しよっか? はい、生太ももに頭乗せるやつですよ~」

「遠慮いたす。無邪気な君の発言が、実は殺意の塊ってわかってるかな?」

「難儀ですね。アーバンでウイットに富んだ会話です」

 どこらへんがだよ! 会話の端々で世間が僕を殺すメーターが急上昇だよ。


 そんな綱渡りな会話をしていたら、玄関のチャイムがなった気がする。


「あぁあぁあ゛ぁあ゛あ゛あ゛~誰かきた、どうしよう。どうしよう。よし隠そう」

「犯人の習性ですね」


「うるせぇ。そもそも君がいるからややこしくなってるんだよ」

「君じゃないです。みやです、ちゃんを付けてくださいね」

 見られたら確実に不味い状況だ。


「いまそれどころじゃないから」

「大きな声をだしますよ?」

 かんべんしてー。


「ちょっとー、みやちゃん」

「ふふふ、冗談ですよ、お兄さん。くふっ」

 うっわー、たちわりー。


「とりあえず、今だけでいいからおとなしくしてて」

「じゃぁ、ちゅーしてくれたらいいですよ」

「のおおおおぉぉぅ」

「うふふ。葛藤してます。冗談ですよ~お兄さんは面白いです」

 このクソガキがぁ!


 ぴんぽ~ん、ぴんぽ~ん、ぴんぽぴんぽ、ぴぽぴぽ、ぴぴぴぴ。がちゃ。


「ん? がちゃ?」

「なにかお取り込み中でしたか? なにやら気配があったものですから」

「あ、大家さん。先日はどうも」

「あれ、おひとりですか? なにやらロリしそうな声がしたと思ったのですが」

 って隠れてくれたのか……っているじゃん。大家さん気づいてない、ラッキーだ。


「ロリしそうってなんですかね?」

「みやちゃんはなにを言ってるのかな?」

「えっと、たしかに私は宮子って名前ですけど、そんなに親しげにされても」

 しっし。あっちいけ!


「えっちな本がありました。ほらここなんて凄いです」

 なにを持ってきてるんだよ~! 僕の秘蔵のやつじゃんか。

「すいません、もう見ませんから。許してください」

「えっと、そこまでは拒否してませんから、普通にしてください」


「こんなお胸の見ちゃメですよ。普通の人は幼女のほうが大好きなんですよ」

「僕には普通がわからないよ」

「ああ、そんな責めているわけじゃないんですよ。気を確かに」

 そうじゃないんだー。


「縛ってるのもありました~。私を責めるですか?」

「僕が責めるわけでもないから」

「えっと……おじゃましました。……やっべー店子さんはいっちゃったなぁ(ボソッ)」

 ああ、大家さんに超警戒されてんじゃん。


「誤解だぁ~」

「ほんとうに?」

「本当に決まってるだろ」

「またまた~」

 もう社会的に殺されかけてるんだが、許してください。


「ところでなんで大家さん、僕にしか反応しなかったんだ」

「あ、私見えてませんから?」

「またまた~」

「俗に言う、座敷わらしですから」

 こいつ何いってんだ。


「あ、きえましょうか? ほら」

「まじ消えた……そして現れた。ってぎゃーーーー」

 本物じゃんか! なんかお化け的な?


「ということで、同棲よろしくです」

「出ていくという選択肢は?」

「良いですけど、破滅しますよ?」

 確かに座敷わらしが出ていったら破滅するとか、よくある言い伝えだよな。……まじか。


「くっ、仕方ない。もう社会的には死にかけだし、幼女のひとりやふたり養ってやらぁ~」

「やった、契約です~~」

 あー、クーリングオフできないものだろうか。


 翌日。


「あ、お兄さんおかえりなさい」

「帰ってきたッス~。今日からよろしくッス~」

「だれ、って……えぇえーーーーー」


 引っ越しした翌日。幼女が増殖した。

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みや狂想曲~逮捕はいやなんですけど~ からいれたす。 @retasun

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