【マッチング5】 未知とのお見合い

第31話「お見合いでマッチングしました」

「んんんっ~~!!」


 猿ぐつわに両手両足の拘束。

 いったい何が起きているのか!?

 俺はベッドで寝ていたはずなのに!


 ロケバスのような中型の車に乗せられる。

 幸いなことに目は塞がれておらず、外の景色はしっかりと分かる。

 景色は俺のアパートの下から見知った道を映し出していく。


 こんなことをするのはネルくらいだと、ネル黒幕説を推していたら、次に車が停まったのは案の定ネルのマンションの駐車場だった。


 そこで停車して数分。

 車の中に大量の荷物が詰め込まれる。

 明らかにネルの持ち物だと思うのだがネルの姿はない。

 ネルはいったいどこに?


 拘束された身体では自分より後方は確認出来なかった。もしかしたら、ネルは俺より先にこのロケバスの中に居たのでは?


 拘束された身体だが、膝の屈伸を利用し軽くジャンプして、体を動かす。

 そうして少しずつ体を回していき、やっとの思いで後方を確認すると、そこには俺の予想通りネルの姿が。

 ネルは俺とは違って拘束はされていないが、アイマスクで目隠しされている。

 そして席にシートベルトで固定されている。

 その間、気絶しているのか、ネルはピクリとも動かない。


「んんんんんっ!!」


 ネルも被害者なのかっ!?


 くそっ! なんとかして逃げないとっ!!


 車は次第に俺の知らない道を走りはじめ、焦燥感が増す。


「んんっ!! んんっ!!」


 俺は座席から落ちるように降りるとネルの元へ。

 お互いに拘束を解けばなんとか逃げられるかもしれない。


 芋虫のように車内のつめたい床を這いずる。

 石や木の根があちらこちらにあった地面をほふく前進していたことに比べればこれくらいなんともない。


 ネルの元まで辿り着くと、拘束された手でまずはネルのアイマスク外そうともがく。

 その甲斐あってアイマスクは外れたのだが、ネルは意識を失ったままだ。


 くっ、揺すったら起きるか。とりあず、意識を取り戻してもらわないとっ!


 さらに俺が体を揺すろうとすると、聞き覚えのある声が上から掛かる。


「おっと、起こされては困ります。神原かんばら先生は今お休み中なので」


 視線を上にあげると、そこにはスーツ姿の敏腕編集者、川鉄道夜かわてつ みちやさんの姿が。


「静かにするというのなら猿ぐつわは外してあげます」


 俺はコクコクと頷いた。


「なんで、川鉄さんがこんな誘拐まがいのことを?」


「ふむ、話せば長くなりますが、私がとある筋から手に入れた情報で、これから行く場所に神原先生の理想の女性がいるかもしれないとのことでした。しかも、そこは河童やうつろ船、付喪神で有名な水戸でしたので、取材も兼ねて行くことになりました。そうしたら、神原先生が城条じょうじょうさんも一緒じゃないと嫌だとダダをこねまして。それにちょうど良く人手も必要のようでしたので、こうして同行してもらった次第です」


「いやいや、同行!? 俺、なんにも聞いてないですけど!?」


「以前、編目村のとき断られた経緯がありましたから、時間も惜しいですし、了承はあとで取ることにしました。で、ご一緒してくださいますよね」


 走っている車から飛び降りることは出来なくはないけど危険だ。

 それに、また危険なところに行くのなら、編目村のときみたいに知らないうちにヤバイことになっているよりヤバくなりそうなところに近づかないよう見ていたほうが安全だな。


「はぁ、分かりました。また危険なことをしそうだったら止めますからね」


「また? 前回何か危険なことがありましたか?」


「蛇に襲われたり、村人に捕まって鉈で刺されそうになったじゃないですか」


「ああ、その程度のことですか。大丈夫ですよ。取材でもそれくらい良くありますから」


 ハハハッと朗らかな笑いを浮かべる。


「…………はい?」


 待って、待って、俺、自衛官でもそこまで危ない事なかったぞ!

 国を守るより危ない取材ってどういうこと!?

 ネルが妙に場馴れしているというか、あっけらかんとしているのは、何度も危ない目にあっていたからか!?


「ああ、でも電波切られたりは危なかったですね。今回はそのときの反省を生かして、モバイルWi-Fiを用意していますから大丈夫ですよ」


 メガネをキラリと光らせながら小型の機械を出す川鉄さんの顔は自信にあふれていた。


 もうこれは何を言ってもダメそうだな。

 俺に出来ることは大人しく危険なところに近づかないこと、なんだけど、ネルは進んでそういうところに行くのが質が悪い。



 ほんと、そんな婚活に連れて行かないでくれよ。



 諦めた俺はがっくりとうな垂れながら、拘束を解いてもらい、大人しく座席についた。


 ……あれ? そういえば、川鉄さんがここにいるなら、運転って誰がしてるんだ?


 なんとなく、いや、ほぼ確信的にイヤな予感がして、運転席を覗く。

 そこにはグレーのジャケットを羽織る胡散臭そうな男、本名すら分からないそいつを俺は便宜上、ギメイさんと呼んでいるのだが、そいつがシレっと運転していた。


「また会ったな。よろしく」


 正面から視線は外さず、軽く手を挙げて俺にあいさつをする。

 安全運転に努めてくれるのは好印象だが、この面子。絶対に悪いことしか起きねぇだろっ!!


 マジで、こんな婚活に連れてくなぁっ!!

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