第七話

 「いいわよ」


 「本当!?」


 マリアンヌは即答であった。


 「でも、それだけじゃ事業は成り立たないわね。まだ複写技術もほとんどないし原本と図書の両方失ったらその本は永久に失うことになる。すごい意味のある事業よ。私もそういう場所に引きこもっていたいし。でも、事業の持続性が必要よ」


 「そうよね……」


 「副業として魔導研究所もやっぱ作る必要あるわね」


 「そっかー」


 「それと……」


 (ん? 何この目線)


 「私とずっとお友達でいてくれる?」


 「当たり前じゃない」

 

 「意味分ってるんだよね……」


 「意味って……」


 「もう、普通の関係じゃなくなるって事。もちろん私も貴族の女性ですから結婚して嫁ぐことになるわ。だとしてもそれはあくまで契約上。それは俗にいう『契約結婚』って言うの。政略結婚とも言うわね。そこに愛なんてない。でも真の愛はあなたと共にあることにしたいの。それが条件。で、私って卑怯でしょ? 自分の欲望と引き換えにしてるのよ」


 (それは、プロポーズだ!)


 「真の愛……」


 「そうよ。背徳にもなるわ」


 ――ばれたらただじゃ済まない。迫害されるわ。覚悟はおあり?


 この小声が背徳の証明にもなってた。


 「すぐに返事をもらいたいなんていう虫のいいことは考えてないしそのような人とも付き合いたくない。そして返事は言葉じゃなくて行動でほしいの」


 「そう……」


 「二駅先にホテルがある。そこを借りるわ。冬至祭の日に。これまで通り普通の友達でいたいのなら来なくていい。でもそれ以上の関係になりたければ来て。積極的に支援するわ。私財も投げる。没落貴族になることを覚悟の上よ。私だってそれだけの危険を晒す以上要求するものも大きいわ。まして農奴解放宣言、農地解放宣言でほとんどの貴族は土地を失い没落してるのよ」


 「そうだったわよね」


 そう、農奴解放宣言、農地解放宣言の威力は大きかった。没落貴族救済のために私立高校事業やら私立幼稚園事業を作ったがそれだけでは足りない。ゆえにある貴族は銀行業、ある貴族は不動産業と事業家に転身してるのだ。残った土地を有効活用する貴族は特に多い。それでもメイドすら雇えなくなった貴族も多い。エスリーンが普及した文明のインパクトは大きいのだ。


 「もちろんあなたも貴族の身。契約結婚はしていいのよ。お互い出産や育児で契りを交わすことも出来なくなる時期も長期間出るわ。先に言うけど契約結婚した後に溺愛する夫婦も多いわ。それをもって『不倫した』だなんて思わないでほしいの」


 「そうよね……」


 「そして農奴解放宣言、農地解放宣言のせいで没落貴族を中心に内乱が起きる可能性が出るわ」


 (そっか! 何でそんなことも考えられなかったんだろう!)


 「だから普通の貴族ならそんな事業の話出しても『貴方、頭おかしいわ』と即答されるでしょう。それだけ文化事業に興味を示す貴族なんて今やごく少ないの」


 (そうだよね……)


 「お返事、待ってるわ」


 地下学級『銀狼級』をマリアンヌは後にした。そして転移魔法を唱えて消えた。


 (私、この道でいいんだろうか?)

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