西遊霊界喜劇(さいゆうれいかいコンメディア) ~GO!THE WEST!~
月偲織 慧泉明
序章、或いは魁。
……ここはどこだろうと少女は薄く目を開ける。どうやら眠っていたようだ。……どこで?……わからない。何だかふわふわした物の上に体を横たえている。ふわふわ。ふわふわ。急に何だか、何だか可笑しくなって、少女はふふっと小さく笑う。そして、寝返りを打ってみる。
寝返りを打ってみると、そこには見知った顔のもう一人の少女が眠っていた。やがて、その少女もゆっくりと目を覚ます。愛しさがこみ上げて来るのを感じる。目覚めた少女はしばらくこちらを見つめ、そして微笑むと、
『
と呼びかけて来た。
思い出した。
「はい、
眞魚も微笑む。
二人は共に手を伸ばし合う。そしてその指先同士が触れ合い、
眞魚の前に、三人の少女が
三人の内の一人、首輪を着け、
「
「はい」
声をかけられた少女は顔も上げず目も開けずに答える。
眞魚は、これが夢である事に気付いた。眞魚がこの三人を呼び捨てにする事はない。
夢と気付いて
「
「はい」
声をかけられた少女は先の
最後に残った三人目の少女に、眞魚は声をかけた。
「
彼女は、 顔を上げ、
目を
「……!…………しさん!」
………………???!
「……
眞魚は目を覚ました。今度は夢の中ではない。それが証拠に両肩を掴まれ揺さぶられている自分を認識出来る。掴んでいる相手は──
目の前で、先程の夢の中で『瑠璃林檎』と呼んだ少女が
「目ぇ覚めたかお師さん!」
眞魚は軽く辺りを確認する。東の空がほんのり
「……何かありましたか……?」
「まぁな!!」
その言葉を聞いた瞬間、眞魚の警戒レベルが一気に上がる。
「
「え?!あ、あぁ、別にそんな
よくわからないが、瑠璃林檎の歯切れが悪い。改めて辺りを見回してみると、瑠璃林檎以外の仲間が見当たらない。いつもは
眞魚達一行は
「瑠璃ちゃん?」
眞魚が瑠璃林檎に詰め寄る。
「いやぁ………………」
観念した瑠璃林檎が語るところによれば、眞魚の愛馬である
そうこうする内に、いつの間にやら瑠璃林檎の姿が見当たらなくなっていた。
「………………………………」
眞魚は小さく溜め息を
目覚めたら愛馬が行方不明という、なかなかの緊急事態にもかかわらず、この少女は妙に落ち着きを払っている。楽天的な性格なのか、或いは、仲間を信じているのか。
金苺は眞魚に気付くと、ばつが悪そうに顔を
「……お師匠様、
問い掛ける夜光桃の声と表情には、疲れと怒りが入り交じっている。怒りは
「…………
思わず出てしまった眞魚の小さな
「いえいえいえいえ!これしきの事、全然ですよ全然!!少し、ほんの少しお
夜光桃は、眞魚に心配をさせた事が
「…………少し早いですが
眞魚のその言葉を聞いて、夜光桃はほんの一瞬考えた。そして、何やら呟き始めたのだが、眞魚の耳には届かない。
「冗談?いやいや、御気遣い?え?え?」
夜光桃が戸惑ったのは、彼女には眞魚の物言いが何だかとても面白かったからだ。勿論眞魚に相手を笑わせようなどという意図など無い。とっさにではあるが、夜光桃を気遣ったつもりで発した言葉である。
「ふ……くっ………」
吹き出しそうになる夜光桃を、不思議な
玻璃檸檬は金苺と夜光桃が戻って来た事を知らず、未だどこかを捜索しているのだろう。
「…………?」
彼女達の視線の先にあったものは………………高い場所に浮かぶ少女だった。
「………………
「……ですね…………」
朝焼けで赤く染まる空を背景に、どのような
「…………あの様な事が出来たのですね……」
「そうですね…………」
少しの間、二人の思考が止まる。その時、金苺が
「…………………………金苺・確認」
玻璃檸檬は誰にも聞き取れない声で呟くと、下降を開始した。
「……
玻璃檸檬の様子を眺めていた眞魚が、一人言の様な問い掛けの様な言葉を洩らす。
「え?あ、あぁ、
二人がそんなたわいも無い会話を交わしている内に、玻璃檸檬は無事、着地した。
「御苦労様でした、玻璃ちゃん」
眞魚が玻璃檸檬を
「……はりー・問題無し」
無表情で答える玻璃檸檬に眞魚は微笑む。
「そうだお師匠様、
一気に捲し立てる夜光桃の鼻先を、眞魚は人差し指で軽く押さえた。
「ふ、ひゃ?」
戸惑う夜光桃に微笑む眞魚。
「……事の顛末は朝餉の後に……いえ、朝餉を頂きながら聴こうと思います。さあ、皆で用意しましょう」
「はりー・了解」
「え、あ、はい、それでは…………」
玻璃檸檬も夜光桃も眞魚の指示に従い、朝食を作るべく行動を開始した。金苺の嘶きを聞きながら、三人は各々手を動かす。程無くして、慎ましい鍋料理(?)が出来上がる。
「お師匠様、こちらへどうぞ」
夜光桃に促された場所に眞魚が腰を下ろす。
「
会食が始まった。其れは彼女達に取って、嬉しく楽しい大切な時間。食事が終わったならば、彼女達は又今日も旅に出る。
西へ。西へ。
「あ、お師匠様、金苺の頭に!」
「まぁ」
何時から
「……………」
そんな二人を無言で見詰めていた玻璃檸檬だったが、ふと視線を荷車の上に移す。其処には小振りな深紅の柩があった。
「………………」
無言で見詰め続ける玻璃檸檬。眞魚が、夜光桃が、金苺までもが其れに気付く。はて。玻璃檸檬の視線の先を、一同が見遣る。
本の少し、柩の蓋が動いた様な気がした。
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