8
「え……ちょっと待ってよ!」
慌てて立ち上がったぼくは、扉に手をかけるが、びくともしない。
どうやらぼくは、たった一人で、このわけのわからない世界に取り残されてしまったようだった。
「……うそ……だろ……?」
ぼう然とする。
いったい何が起こっているのか。どうしたらいいのか。何も分からない。
なんで、こんなことになってしまったんだ……
これは悪い夢なんじゃないのか……
ほっぺたをつねってみる。痛いだけで、夢から覚めることもなかった。
ヘリは相変わらずローター音を響かせて、近づいてくる。
白い星のマークが機体に描かれていることから、米軍機なのは確かなようだ。
こういう状況なら、むしろ見つかった方がいいかもしれない。そして救助してもらえれば……
いや、でも、あの機体が米軍機である保証はない。ここがどういう世界なのか、全く分かっていないのだ。
ただ、ぼくには、ひょっとしたら……と思っていることがあった。
飛行機が特に大好きなメカオタクであり、ミリタリーも一通りは押さえているぼくの知識によれば、今までここで見てきた三種類の機体はどれもベトナム戦争で米軍が使っていたものだ。だから、もしかしたら……ここは、ベトナム戦争当時のベトナムなんじゃないだろうか。ぼくはタイムスリップしてここにたどり着いてしまったのでは……
もちろん、
ぼくは日本人だから、どっちかと言えばアメリカに近い立場だろう。だとすれば、どうせ捕まるならベトコンよりも米軍の方がまだマシな気がする。英語で話せるかどうか、微妙なところだけど。
やっぱり、救出してもらおう。こんなところで一人では生きていけない。
「おーい! おーい!」
精一杯叫びながら、ぼくはヘリに向かって大きく手を振る。
ところが。
ぼくに気づいた様子も見せず、ヘリはそのままぼくの真上を通り過ぎていった。
「え……」
そんな……あんなに大きく手を振ったのに……しかも、高度だってそんなに高くなかったはずだ。せいぜい数百メートルってところだろう。だったら絶対にぼくの姿は見えてるはず……
ぼくはがっくりと膝を地面についた。
こんなところで、一人で生きていかなくちゃならないのか……
親しい人たちの顔が、頭の中をよぎる。父さん、母さん、中学の友達、先生、伯父さん、伯母さん、ヤス……そして、シオリ。
みんな……もう、会えないのか……
いつの間にか、目の前が涙でぼやけていた。
泣いたところで何にもならない。良く分かってる。だけど、ぼくは泣きたかった。こんな状態で泣かずにいられるほど、ぼくは強くない。
帰りたい……元の世界に、帰りたいよ……
どうにかして、帰れないものだろうか……
小屋の扉を振り返る。ぼくはここからこの世界にやってきたんだ。この扉は元の世界につながっている。だから、ここを開けることができれば帰れるかもしれない。
引き戸になっているその扉にもう一度手をかけて、ぼくは全力で引っ張ってみた。
だけど、扉は全く動こうとしない。鍵なんか全然かかってないようなのに……
「お願いです! ここを開けて下さい! ぼくを元の世界に帰して下さい!」
叫びながら、ぼくはドンドンと扉を叩く。どうせそんなことをしたって無駄だ、ってこともなんとなく分かってる。だけど……ぼくはどうしても帰りたかった。
その時だった。
「……!?」
扉を叩いたときの音が、微妙に変わった。なんだか音の響きがなくなって、音そのものも小さくなったような気がする。
そして。
突然、その扉が開いた。
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