「ランド」

前編 とある双子の兄妹

 全てを滅ぼす破壊の白光が広がっていく。

 ドーム状に膨らんだそれが生物を死滅させ、建造物を薙ぎ払っていく。

 中心地点にいる彼女以外を、この世界から消し去るように――。


「……あんたの手なんか握るわけないっての。ほんっとに、バカな勇者……っ」


 灰になって風に乗り、消えていった戦友を想いながら、金髪の少女が肩をすくめた。


 ……こうして、世界は『一度』、終わった。



 やがて、滅ぼした張本人でさえ、世界から消えてしまった。


 誰もいなくなった世界――さて、記録者がいないため一体、何年が経ったのかは分からない……、数百年、だろうか。

 ともあれ、以前と変わらない世界に、一人の少女が降り立った。


 長いブラウンの髪を後ろで結んだ、ポニーテール姿。


 パーカーを羽織り、スカートを穿いた、場に似合わない服装だ。


「……無人島?」


 無人『島』どころではないのだが、少女はまだこの世界のことをなにも知らない。


 この場から見える(自分が立つ大地を含め)三つの島以外、周囲には海だけが広がっていると気付くのは、もう少し先の話だ。



 晴天、落ち着いた海、気候は良好、荷物を積んだ船の揺れは少ない。


 絶好のコンディションだが、少年・オットイの目の前には短いナイフの刃があった。


「命を簡単に捨てたくはねえだろう? 

 おとなしく、てめえの手で全ての荷物をオレたちの船に乗せるんだ」


 手ぬぐいを頭に巻いた少年の背中が、強く蹴られた。

 その勢いのまま、積んであった荷物の山に顔面から突撃してしまう。崩れた木箱の中から、採れたばかりの果物や、釣れたばかりの魚などがこぼれ出てしまった。


「こ、これ、は……、島、に、いる、食材を、調達できない人たちのための……」


 言葉の途中で、オットイの顔面が蹴り飛ばされ、体が船上を転がる。


「だからなんだ?」

「――か、はっ」


「オレたちは海賊だ、弱ぇヤツから欲しい物を奪って、なにが悪い」


 真っ赤な服の背中には、大きなドクロマークがデザインされている。


 海の上にいながら赤を選ぶ彼らのセンスに意味を見出そうとするのは無駄な努力だろう……、彼らは残されていたカラーを選んだに過ぎないのだから。


 くしゃ、と赤い男が、オットイの頭を掴んで髪を引っ張り、面を上げさせる。


「従わねえなら殺すだけだ」


「――やめて!!」


 声を上げた少女がいた。

 周囲にいた、同じ船に乗っていた仲間たちが少女を引き止めようとしたが、彼女は彼らの制止を振り切って、海賊の男の前へ力強く、ずんずんと歩いていく。


 素潜り漁をしていたため、まだ乾き切っておらず、服や髪が濡れており、水滴を垂らしている。日に焼けた褐色の肌、オットイと同じく、青みがかった髪色……、二の腕と太ももを大胆に出した服装が、男の目を引きつけた。


「ニ、オ……」

「あなたたちに従うから、危害を加えないで」


 男の手が緩み、掴まれていたオットイの顔が床へ落下する。

 男の視線が、少女の頭からつま先までを、舐め回すように動いた。


「ほお、磨けば光る逸材じゃねえか? ……凹凸は少ないが、へっ、色々と仕込むのはありか。よし、積み荷と一緒にお前も船に乗れ」


「なッ――誰が!! 積み荷を運ぶだけでしょ!?」


「本当は全員を殺してお前だけを奪うことも可能だが、これはオレたちの優しさだぞ? お前がおとなしくついてくれば、お前以外に危害を加えない。どうだ? まさかお前ら少数の、たかが村の一船団が、戦い慣れした海賊に勝てると思っているのか?」


 オットイたちの船に襲撃してきたのが、数名の海賊団員だった、というだけで、大元となる海賊船には十倍の人数が構えている。


 当然、挑んだところで勝敗など分かり切っていた。


「…………このっ、外道が……っ」

「なんとでも」


 男の手が少女の肩を掴む。そのまま、自分の元へ、ぐいっと引き寄せた。嫌な顔をする少女と、オットイの目が合う……、だが、止めるべき場面で、少年の口から言葉が出ない。


 分かっていた彼女は、心配をかけないようにと、無理をして笑っていた。


「まっ」


 待って。

 たった、その一言が、どうしても、喉から先へ出てくれなかった。


「ふはっ、はっは、もしかしてあいつはお前の恋人か? 女が連れていかれるって言うのに、負ける覚悟で挑んでさえもこないとは……、腑抜けた野郎だな」


「恋人じゃないし」


「でも、お前はあいつを守ろうとしたんだろ?」

「……家族、だから」


 兄だから、とまでは言わなかったが、そういう関係性だ。

 双子の兄妹きょうだい

 オットイと、ニオ。


 似ているところを探す方が難しいほど、両極端に分かれた兄妹と言われていた。


「わたしが、守るって、決めたの」


「――ああ、そうかい」


 海賊船から垂らされた梯子はしごを登って……妹の背中が、遠ざかっていく。



 海賊船の甲板に足をつけたニオを待っていたのは、多くの海賊の船員だ。

 共に梯子を登った、背後にいた男が指示を出す。


「おい、とりあえずこいつをテキトーに陵辱しておけ。あくまでも丁寧に、な」

「え……」


 瞬間、ニオの腕と足を掴む男たちが群がってきた。


「ひへへ、兄貴、いいのか、楽しんじゃってもいいのかよお?」

「好きにしろ。……こういうタイプはお前の好みだろ?」


 丸い形をしている、一際大きな男だ。

 彼の長い舌が、ニオの頬を下から上へ撫でた。


 ぞわり――っ、と、全身に鳥肌が出る。


「い、や――――――ッッ!!」


「いいぞ、泣いて鳴いて楽しませろ、小さな体躯で、踊ってみせろッ!」

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