第22話 剣を持てない理由

 俺は女騎士どもを引き連れ、兵営内にある練兵場の一つにやってきた。

 練兵場といっても、特別な施設は何もない。

 だだっ広い平地ってだけ。

 ここは団員の増員によって造られた新しい施設で、ヴェルダンディが接収する前は民間の野菜畑だった場所だ。

 その場所で、10人の女騎士たちが一列に並んで素振りをしている。


「はああああああああっ!!!」


 素振りと言っても、普通の素振りではない。

 実戦をイメージしているのだろう。

 右に左にステップを踏みながら、凄まじい速度で剣を振っている。

 上段から脇構え、そして下段、袈裟斬りと流れるような太刀筋だ。

 以前にクーデリカがやっていたコンビネーションだな。


「あ! バルク様がお越しよ!」

「ウソ!? バルク様!?」

「あたし化粧してなぁい!!」

「吉報・法悦・悦喜」


 女騎士たちが、素振りを止めて一斉に振り向く。

 白銀の鎧ドレスと青いスカートの隊服によって示された所属は、聖バルク騎士団第七連隊、通称【王の寵愛】隊。

 十全十美にして一日千里の武才と賢才、そして美貌を持つこの連中は、ロートリアで最も強い聖バルク騎士団の中でも、更にトップ10に入る連中である。


 ちなみに連隊にしては人数が余りにも少ないが(普通は数百名)、これはこいつら1人1人が、それぞれ1個連隊に匹敵する戦闘力を持っているためだ。

 弱卒をまとめてぶつけるような戦法とは違う用兵を行うので、このように10人規模でチームを作った方が何かと都合がいい。


「今、何をしている?」


 俺は近場の女騎士に尋ねた。


「1000ブリにございますわ、バルク国王陛下」


 すると隊のナンバー7、金髪ロングの強気そうな目をした女騎士が答えた。

 分かりやすく隊服に7と書いてある。


「1000ブリ?」

「はい。1000回剣を振る速度を競う稽古でございます。もちろんただ振るだけではなく仮想敵をイメージしながら行いますの」


 ふむ。

 まあ形の確認と体力トレーニングとしては理に適っている。

 だがこいつらが必要なのはもっと高度なトレーニングだろう。

 後でこいつらの訓練も効率化しないとな。


「バルク様! だんちょーってばすごいんだよ! 67秒で1000回振ったの! ボクでも200秒かかるのにー!」


 言ったのは隊のナンバー3。

 青髪で短躯の、猫みたいな女騎士だ。あと乳がデケえ。

 ちなみに第七連隊は実力主義を標ぼうしており、トップのクーデリカを除いて皆ナンバーで呼び合っている。

 このナンバーは実力を示し、ナンバー3は隊で3番目に強い。


「寝不足気味だったがな。後半失速した割にはいい数字と言えよう」


 俺の隣に居たクーデリカが、まんざらでもない顔をして言った。

 団員たちの手前、格好を付けずにはいられないのだろう。

 可愛い奴だ。


 にしても1000回を67秒か。

 まあまあ使えるな。


「バルク様もやってみる?」

「バルク様の見たい!」

「お願いします!」


 騎士たちからせがまれる。


「いいだろう。誰か剣を貸せ」


 俺がそう言うと、ナンバー7の女が自分の剣を抜いて、刃の方を手に持ち直し俺に差し出した。


「この剣、強度に難がねえか?」


 俺が差し出された剣の造りを見て尋ねると、


「いや。第七連隊の剣は全てアダマント鋼を使った特殊魔法合金製で、ドラゴンが踏んでも砕けん。まず大丈夫だと思うが」


 クーデリカが答える。


「そうか」


 俺は剣を振った。

 シュパッという音と共に、真昼間でもそれと分かる黄色い閃光が一瞬辺りを照らす。

 一瞬遅れて、彗星が落下したような轟音が辺りに鳴り響いた。

 黒い蝋燭を垂らしたような液体が、俺の手の甲に付着している。


 やっぱ剣は柔すぎるな。

 山とか振りてえ。


「な……何が起こった……!?」


 クーデリカ達が目を丸くして言った。

 この場に居る誰一人、何が起こったのか理解していないらしい。


「刀身が液状化して爆発したんだ」


 俺が一言で説明してやると、一同の顔が増々ポカーンとする。


 こうなるから俺は剣を持てねえんだよな。

 剣より拳の方が硬え。


「は……?」

「え、液状化って……!」

「爆裂魔法とかじゃなかったの!?」

「ほへー……カッコイー……!」

「どうやったらそんな事ができますの!?」

「バルク様すごすぎです……!」

「尊敬……! 敬仰……! 渇仰……!」


 クーデリカ(ナンバー1)を除くナンバー2から10までの女騎士たちが、俺の傍に群がってきた。

 純白の腕を俺の腕に絡ませて、キャアキャア騒ぎ出す。


「俺の腕は玩具じゃねえ」


 言いながら、片っ端から女騎士どもの体を空中に放り投げて、お手玉してやった。


「ひゃああ!?」


 白いのから蜂蜜色をしたのまで、肌や目や髪の色がカラフルな女たちが次々と宙を舞う。

 その香しい体臭も相まって、まるで青空に咲いた花畑のように見えた。









 数分後。


「…………っ!」


 俺が女騎士たちと遊んでやっていると、クーデリカが1人落ち込んでいるのが目に入った。

 その悩まし気な顔を見ただけで、奴が何を考えているかが分かる。


 俺との力の差を目の当たりにして、己の非力さを責めているのだろう。

 団長たる私がこんなザマでは正義を貫けない、とか思っていそうだ。

 後は、団員たちの前でこれ見よがしに落ち込んでしまっている自分自身をも恥じているな。

 そこから悩みが無限大に広がっているのだろう。

 メンタルケアが必要だな。


 俺は一瞬でそう分析すると、お手玉していた女たちをポンポン放り投げた。

 隊服姿の乙女たちが夏空を舞い、そのまま着地して楽しそうに草原を転がっていく。


「落ち込むのはいいことだぞ」


 その様を見やりながら、俺はクーデリカに声を掛けてやった。


「いいこと……? 落ち込むことが……?」


 クーデリカが首を上げて俺を見る。


「そうだ。俺との力の差を感じて落ち込むってことは、俺より強くなることをまだ諦めてねえってっことだ。その強い気持ちがあればお前はもっと強くなれる」

「……っ!!」


 俺の言葉に、クーデリカの瞳が輝き出した。

 俺のかけた言葉に、感動しているらしい。

 救いでも見出したかのような顔をしている。

 まあ実際、こいつみたいなタイプは意志の強さで限界を突破する事があるからな。

 口から出まかせ言ったわけじゃねえ。


「よしお前ら、俺が特別に稽古つけてやる。俺が直接しごけるのは、お前らくらいだからな」


 俺はクーデリカを含め団員たちに言った。

『お前ら』だけだと告げて、特別感も刺激してやる。


「あ、ああっ!! ぜひ頼む!!!」


 早速クーデリカが俺に頭を下げる。


「「「よろしくお願いします!!」」」


 団員たちもそれに続いた。


 こいつらは俺の軍の中核になる連中だ。

 一度きちんと鍛えてやる必要がある。








 ―――――――――――


 いつも読んでくださってありがとうございます

 近況ノートにバルク・クーデリカ・アースオリジンのキャラデザのイラストを載せました

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