第21話 戦力の立て直し

 昼下がり。

 午前中に内務の仕事を済ませた俺は、ロートリア城に隣接した騎士団の兵営にやってきた。

 ここにはうちの主力戦力である3つの騎士団(ロートリア人で編成される王国騎士団、外国人・亜人を中心とする三頭騎兵団、そして聖バルク騎士団)の人員と、それを補佐する歩兵団の連中が暮らしている。


 高い塀に囲まれた営門を潜り、両側に糸杉の木立が並んだ石畳の道を進む。

 地平線に届くのではないかと思われるような、途方もない長さの道だ。

 この兵営の敷地面積はおよそ8平方キロメートル。

 その広大な敷地の中に3つの兵舎と大小4つの大練兵場、2つの魔法射撃訓練場と騎士団本部、そして天然のダンジョンがある。ダンジョンは地下深くからモンスターが湧いてくる洞穴であり、モンスターがもたらす資源や戦闘経験が非常に役に立つ。


 更には一見無縁と思われる大庭園があり、2つの離宮とプールみてえなデカさの噴水が設置され、そこから3つの小川が流れている。天然の温泉を使った大浴場まであった。


 このバカでかい兵営はかつて近衛騎士たち……前にグリフィン使って暴れ回っていた連中だ……が使用していた寮宿舎をそのまま転用したものだ。

 近衛兵というのは、もっとも王様に近い兵力だ。

 従って、王の権威が高まるにつれ、王直属の私兵部隊として武力や権力が集中しやすい。

 特に先代のベルダンディは後ろ盾がない立場から反乱を常に怖れていたため、国内軍事費のうちおよそ8割がここの費用に使われていた。この寮が宮殿のようになったのもベルダンディの代だ。

 大事な俺の血税が、クソババアが男を囲う事なんかに使われたと思うと非常に腹が立つ。


 ……。

 とはいえ、俺の騎士団も女ばっかだ。

 俺が結成したわけじゃねえが、国民から見れば同じに思われるだろう。

 どうしてバルク王は側近を美女ばかりで固めているのか。

 先代の女王と同じなのではないか。

 ってな具合でな。


 ま、その辺りも含めて有効活用してやろう。

 例えば金持ち相手に騎士団の寄付金を募り、女たちと会う機会を与えてやるなんてのもいい。

 いわゆる高級デートクラブって奴だ。

 クーデリカを初め、ここには男なら誰しもお近づきになりたくなる程の美女が揃っている。

 祖国防衛のためとか言い訳を作って宣伝すれば、国中のスケベ貴族や商人どもから金が集まるだろう。

 同時に俺に対する不満も消える。

 なぜならそういう不平不満を垂れるのは、ハーレムを羨ましいと思っているスケベ貴族だからな。

 こういう連中にはおこぼれを与えておくのが一番不満が出なくていい。

 共犯者にできる。


 一方で、これは女騎士たちにもメリットはある。

 なんらかの理由で騎士を止めるとなった時に、有力な資産家と付き合いがあるのは悪い事じゃねえ。

 好みの男がいれば交際するもよし。

 気に入らなくても、うまく好意を引き出せば金を貢がせることができる。

 かつてリアーナが俺にやったみてえな具合に。

 ま、うちの連中にそういうエグい事をするタイプは少なそうだが。

 デートクラブの参加希望者にはそういう事も教えておくか。


「バルク! よく来てくれた!」


 俺がそんな風に悪だくみをしながら杉木立を歩いていると、やがて前方からクーデリカが走ってやってきた。

 明らかに嬉しそうなのは、予め視察すると伝えておいたからだろう。

 俺に自慢の騎士団を見せたくて仕方がないのだ。


「クーデリカ、お前に預けた騎士団はどうだ?」


 そんなクーデリカの心情を見透かして尋ねてやる。


 ちなみに現在のロートリアの兵力だが、主力の聖バルク騎士団を除いて殆どが壊滅状態である。


 しかも俺がロートリア城を奪還したことはアレックスターの連中に伝わっているから、恐らくそんなに時間を空けねえで、アレックスターの本隊とやらが攻めて来るはずだ。

 それまでに再軍備し、かつ、主力であるこいつらを鍛える必要がある。


「ああ!

 早速稽古を見て頂きたい!!

 騎士たちはもちろん馬番一兵卒に至るまで、全ての者が正義に燃えている!

 我が聖バルク騎士団こそは大陸一の騎士団だ!

 必ずや世界の悪を断じて見せよう!!」 


 クーデリカが外套を手で払い、拳を突き上げ言った。

 正義を示す剣と天秤のマークが入った胸甲の下で、たわわに実った乳房が窮屈そうにしている。


 よしよし。

 真面目にやっているようだな。


 その回答に俺は満足する。

 俺によし、お前によし。

 ウィンウィンの関係ってのは気持ちがいいもんだ。

 俺だけ儲かるのはもっといいけどな。


 そんな具合で、俺はさっそく領内にある練兵場をクーデリカに案内させた。

 やがて見えてきたのは、兵営のど真ん中に造られた例のプールみてえに超巨大な噴水。

 まるで青いサファイヤを溶かしたような水に浸かっているのは、全裸の美女たちだった。

 プールサイドならぬ噴水の淵には、ご丁寧にも酒瓶が転がっている。

 まるで宴会騒ぎだ。


「キャハハ!!」

「ねー! バルク様とクーデリカ様ってデキてると思うー!?」

「ぜったいないでしょ! だってクーデリカ様ってー、おこちゃまだもん!!」

「だよねー! 見た目キレイなのにざんねーん!」

「ねー! じゃーアタシ、バルク様狙っちゃおうかな!!?」

「あー! ずるい! わたしも!!」

「私も!!」


 各人嬌声を上げながら、すっぽんぽんで水浴びしていた。


 こいつらホントにロートリア兵だな。

 見た目はまともなのに。


「おい、遊んでるぞ」


 俺は、さっきから隣で石像みたいに固まってるクーデリカに尋ねた。

 たちまちクーデリカの顔が戦鬼オーガのように険しくなる。


「つ……ついさっきまで真面目にやっていたというのに……!! こんのバカどもおおおおおおおっ!!!!」


 そう叫ぶや否や、クーデリカが噴水に飛び込んだ。

 銀色に光る刃を振りかざし、腰まで浸かる水を凄まじい怪力で噴水の外に押しやりながら、一直線に走っていく。


「貴様らあああああ!!! そこになおれえええええええいいい!!!!」

「ひゃあ!?」

「団長帰ってきた!?」

「にーげーろー!!!」


 女騎士たちは、次々と水から飛び出してすっぽんぽんのまま噴水の周りを走り出す。

 麗らかな初夏の日の午後。

 水の滴る乙女たちが裸で木立の間を駆け抜けていく様は、何か芸術めいたものすら感じる。


「きゃはははは!!」

「こーれたーのしぃー!!」

「バカモノが服を着ろおおおおお!! 団の風紀を守れええええええ!!!!」


 ふむ。

 真面目とは言えねえが、とりあえずクーデリカは部下と仲良くやれているようだ。

 後は実力だな。

 実力がねえと今度こそ皆殺しにされる。


 クーデリカの怒声やら女騎士たちの悲鳴やらが響き渡る中、俺は女騎士たちの腕前を試すことに決めた。

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