第18話 大臣の始末
さて。
お次は大臣どもだ。
「お前らも俺を助けなかったな?」
俺がその場に振り返り言うと、大臣たちが一斉にビクン、と竦み上がった。
普段、口八丁手八丁で荒稼ぎしているその肥えた口を開いて申し開きすることも、この場から逃げ出すこともできないらしい。
俺の背後では民衆たちが「殺せ! 殺せ!」言い続けている。
「どうだ。民たちもこう言ってる。いっそ死ぬか?」
「お……恐れながらああああ!! バルク様!!」
やがて、一人の長老格の大臣……貴族院のトップだかなんだかの80過ぎの老人……が、俺の下に手もみしながらやってきた。
他の大臣たちもエヘラエヘラと笑いながらその後に続く。
「恐れながら申し上げます! わたくしどもは、本当はアナタ様をお助けしたかったのです! で、ですが、議会でそこの女に脅されてしかたなく……!」
言って指差したのはベルダンディ。
他の大臣たちもコクコク頷いている。
「だ、大臣!? 何をいいます!?」
「黙れ!! 全ての元凶はコヤツですぞ! バルク国王陛下! もしこの者を処分するのであれば、ぜひわたくし共にご命令くだされ! 誠心誠意協力させて頂きまする!」
「邪悪なる先王を処断する許可を! バルク国王陛下!!」
大臣は、さも忠義に燃えたとでも言わんばかりの目をして俺に言ってきた。
「お前たちいいいいいい!?!?!」
ベルダンディが顔を真っ青にして叫ぶ。
いや、トカゲのしっぽ切りするってさっき思ったけどさ。
いきなりされてんのウケるな。
しかも元配下に。
「黙れ俗物。それ以上国王陛下を愚弄すれば斬るぞ」
案の定クーデリカが怒っている。
あのナイフみてえに鋭い目をギラつかせたかと思うと、一瞬で剣を抜いて大臣の喉元に剣を突きつけた。
「ふっふいいいいいぎゃへほっ!??!」
大臣は恐れ戦いてその場から一歩退くと同時に、コケて尻餅をついてしまった。
その格好のままで、更に醜態を晒し始める。
「バルク、こんな男どもを生かしておいても役に立たん。この場で処刑する許可を」
「どっ、どうぞお助けくださいいいい!! バルク国王陛下あああ!!!! そ、そうだ! うちには家宝が御座います! あれを差し出しますゆええええええ!」!
大臣が何やら言い出した。
俺は黙って聞く。
「わ、私も屋敷と使用人たちを!! む、娘も付けます!!! うちの妻も宜しければ!」
「あ、アナタアアア!!?」
「うるさい!! ぜ……全財産を貴方様に捧げます!!! ですから命だけはあああ……!!」
すると、他の大臣が妻も娘も俺に渡すなどと言ってきた。
文句を言ってきた家族をその場でぶん殴る始末。
こいつら清々しいくらいのクソだわ。
「そんなゴミいらねえよ。当然お前らもな」
俺は冷淡な声音で言った。
場が一斉に静まる。
「いいか? 俺が欲しいのは、俺の言う事を聞く奴隷だ。組織をデカくするにはどうしても人員が必要になるからな。だからもう一度だけチャンスをやろう。俺のために働け。それがお前ら自身のためになる」
「は、はいいいい!!!」
みな肥え太った体を必死に縮こませて床に這いつくばっている。
ちなみに俺の判断だが、殺すのはこいつらが裏切ってからでいいと思っている。
理由は幾つかあるが、一番は今現在、国内の状況が落ち着いていないってことだ。
こういう混乱の時に、それまで上手く現場を取りまとめていた連中をいきなり外すと酷いことになる。
代役がきちんと確保できているなら別だが、ただでさえ敗戦後の大変な状況で大臣の首を挿げ替えるってのは現実的じゃねえ。
今後数年かけて、こいつらの後進を育ててそれから御退場いただくのが国全体としてはいいだろう。
クーデリカは納得しねえだろうが。
ま、悔い改めさせるためとかなんとか言っとくか。
そこまで考えると、俺は祭壇に上り、神像を蹴り倒してその上に座った。
遥かな高みから民衆たちを見下ろす。
「お前ら!! 前女王ベルダンディそしてこの国の大臣どもは全て俺の下僕となった! 今後こいつらは俺のためにのみ仕える!! 二度とクソみてえな政策はさせねえ!! お前らもそれでいいな!?」
俺は殺せコールを続けていた民衆たちに問うた。
すぐに返事は返ってこなかったが、やがて、
「バルク国王万歳!!」
「国王陛下の仰せのままに!!!」
「我らが神! バルク様!!!」
「どうぞ我らをお導きを!!!」
民衆たちから色よい返事が返ってくる。
その顔に浮かんでいるのは、偉大な王を指導者として得たという喜び。
そして恐怖。
女王も大臣も民衆たちも、そしてこの俺も。
ロートリアの国民全員に言える事だが、こいつらに忠誠心なんてものは期待できねえ。
元々が、強けりゃいいなんて文化の人間だからな。
野蛮人なんだ。
モラルも何もあったもんじゃねえ。
だから恐怖で縛る。
こいつらは犬だ。
主人である俺が上手く躾ける必要がある。
よしよし。
お前らにもせいぜい働いてもらうぞ。
喝采を叫ぶ民衆たちを見て、俺はそんな事を思っていた。
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