1日の始まり









―廊下の先の扉を開けると、そこには大きな広間があった。




ここは、騎士団の人達が使う食堂です。その名の通り騎士達が食事をする場所であり、大きな広間には多くのテーブルや椅子が置かれています。



そして…



内装にも凝っており、壁に施された可愛らしい天使達の彫刻や、煌びやかな装飾が魅力的なシャンデリアなど、それはどこか荒々しい騎士のイメージとは、まるで違い…どこか、高級なレストランを感じさせる様な造りであった。






「ファアアアア~ア…」



(何か、まだ夢の中にいる様な不思議な気分ですね…)




天使に囲まれた私は、そう思う。アクビをしながら、眠そうに。ボーっとして眺めていると、また夢の中に戻されてしまいそうな気がしますね。





因みに、朝食はいつもバイキング方式です。





「あら~、私達が一番最初なのかしら…?」

「まだ他の騎士達は、食堂に来ていないわね」


「私達が一番乗りじゃないの!!」


私は、ガランとした食堂を見てそう言った。





「…」(ルイア)



「私達が一番最後なのよ…」


冷静に客観的に物事を見て言うルイアであった。いや、私が能天気すぎるのか…


私達はすぐにお皿に各々の朝食をのせて、席に着いて食べ始める。ルイアが選んだのは、食パンとジャムとホットミルクだけであり、それを黙々と食べている。






        ~5分後~






ルイアは、もう食べ終わっていた様です。



「…」(ルイア)



「あの、イブ…」

「貴方、まだ3分の1しか食べてないじゃないの…」

「と言うか、朝から良くそんなに食べられるわね」


ルイアは、呆れた感じで言う。





「…」(私)



ルイアが食パンを食べ終わったのに対して、私はまだ食パンを3分の1しか食べていなかった。その他のおかず諸々も…そして、選び取った量も私はルイアの3倍多かった。もし私とルイアが逆だったら多分ちょうど同じ時間に食べ終わっていたのかしら。





「これ、食べる?」


私は食パンをモグモグと噛みしめながら、残りのおかずをルイアに勧める。



「「いるかっ!!」」


ルイアは、軽く怒っていた。




「んっ、そう言えば…」


突然だか私は、ふと思い出した。


「どうしたの…?」 


ルイアは、怪訝そうな表情で言う。





(((今日、馬小屋の朝の餌やり当番だったのだ!!)))


「「ヤバい、餌やり忘れてた!!」」


呑気に、朝食なんて食べている場合じゃなかったのだ―





「ハァ…」

「私、もう先に行っているわよ…」


ルイアは改めて、ため息をつくと呆れた表情で食堂から出て行ってしまった。


…流石に手伝ってと言える空気では無かったので、私は急いで残りの朝食を口に詰めて、さながらリスの様に頬っぺたをパンパンに膨らませて、私の担当する馬小屋に向かうのであった。









           ○








―私は、先程の自己紹介で言った様に、この騎士団では魔獣調教師の役割を担っています。魔獣調教師というのは、なんか立派な響きなんですが、今…実際やっているのは馬小屋のお馬さんのお世話なのです。その名の通り騎士団でありますから、騎士達は馬に乗って闘います。その馬のお世話を主に私達、魔獣調教師が行っているのです。



騎士が乗る馬…



いわば騎士の足でもありますから、それは騎士団の中でも重要な役割の1つと言えるでしょう。





「…」(私)






えっ…『馬は魔獣じゃ、無いよ』ですか!?

そこは、問題ありません。馬は獣ですから…

魔獣という文字には、獣も入っているから大丈夫なのです!!



…と私は頭の中で、頷き納得していた

(いや、納得させていた)




「ハァハァハァハァハァハァ…」


さて…馬小屋に着いた私は、早速餌やりを始めようとします。いつもなら、私は魔獣使役の魔法 “魔獣の気持ち” を使い、お馬さんと意志疎通をしながら餌やりをするのです。例えば…「今日の調子は、どう?」や「どこか調子が悪い所は無い?」などと語り掛けながら。



…実際、お馬さんと会話を出来る訳ではないのですが、魔法の力により、お馬さんの大体の気持ちが私には読み取る事が出来るのです。しかしながら、今日の私には、そこまでする余裕は時間的にありませんでした。



しかし、餌やり場を見ると―



「あれっ…」



もう餌が置いてあり、黙々とお馬さん達は餌を食べていたのです。





「…」(私)



(誰かが、先に餌をあげてくれたのか…)


有難い事ですが、これはこれで後で怖いパターンですね。お馬さん達は餌を食べながら、私に『お前、おせぇーよ』と言っている気がした。魔法は、使って無いはずですが…




(一体、誰がお馬さんに餌をあげてくれたのだろう…?)


別の馬小屋の担当騎士が気を利かせて、私の所もやってくれたのであろうか。とりあえず…後で確認して、お礼を言わなければ。流石にお馬さん達に聞ける空気では無かったので…というか、そこまでハッキリした事までは読み取る事が出来ません。私は、首を傾げながら考えていると…





「「ああああ、ヤバい!!」」

「「急げええええ!!」」


時計を見ると、招集時間まで残り3分を切っていた!!


私は、天井にぶつかりそうな勢いで跳び上がる。

とりあえず、誰が餌をあげたのか考えるのは後にして、私は全速力で招集場所に向かうのであった。










…とまぁ、こんな感じで今日も忙しない1日が始まっていくのです。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る